ゆぎお | ナノ



いつも、いつまで?いつまでも


※VJ設定
※いろいろ捏造


これはいつも通りの出来事。
レオ・コーポレーションに追われるのもいつものこと。何人に囲まれようとも、奇術で必ず逃げおおせるのもいつものこと。ユートが囮役を買って出ることもいつものこと。
遊矢はいつも精神世界から、ユートの必死な表情を見ているしかない。
精神世界は何も感じない世界。伝わってくるのは、体を使うものの“感情”が熱さと寒さとして襲ってくるだけ、これしかわからない。今伝わってくるのは、焦燥と痛みによる不快な熱気だ。
怪我、と言ってもこれもいつも通り。見ていた分には外傷はわからないが、表情とどこからか沸き上がる熱気で嘘じゃないことはわかる。しかし手を伸ばしたところで何を掴むこともなかった。
何とか裏路地に駆け込み、追っ手の足音が遠ざかると同時に壁を伝い落ちた。

『ユート怪我!』
「大丈夫だ、出てくるな!」

どれだけ苦しそうに息を吐こうが、決して遊矢が表に出てくることをよしとしない。頑ななユートだが、遊矢もおとなしくするわけもない。
気を抜いた一瞬に無理矢理主導権を奪い返せば襲ってくる痛み。呻き声をあげそうになったが、後ろから慌てた追っ手の声が聞こえて口を抑える。
ファントムという言葉から遠ざかり、ユートの小言も交わしながらもアジトへと滑り込み、やっとため込んでいた息を吐くことが出来た。

「ふう、今日もなんとかなったな」

笑いながらユートのいる方向を見ると、いつも通りに渋い顔と鋭い眼光が返ってきた。このまま笑って誤魔化そうとしれば、無理矢理精神が引っ張られるような感覚がする。慌てて主導権を取り戻すと、いっそう不機嫌になったユートが腕を組んでいた。

『変われ。手当をしてから代わる』
「俺は楽させてもらってたんだから」
『怪我は私の不注意のせいだ』
「いーのいーの」

包帯探しながら上着に手をかけると慌てた声が聞こえてきた。次は一体何があったのかとユートの方を見れば困った顔をしていた。

「どうしたの?」

ユートはそれっきり何も言わない。包帯とはさみをくわえながら上着を椅子へと放り投げると、また静止がかかる。

「何?」

顔を向けずに答えると、ただ急いた感情だけが伝わってくる。いつも通りの反応に、耐えられなくなり吹き出してしまった。

「服、脱ぐけど。いい?」
『……勝手にすればいい。私の許可をとる必要はない』
「俺だけの体じゃないし」
『言い方がいちいちイヤらしい』
「ユートにだけ、だろ?」

上着をめくりあげると、布が擦れた脇腹に微かな痛みが走った。どこかで打ったのだろうか。鬱血に目を細めると無言で包帯を巻いていく。横目でユートを見ると俯いて頬を赤くしている。

「いつもごめんな」
『それはもういい』
「いつも可愛い」
『……知ってる』
「あれ、ついに認めるようになったんだ」
『諦めたと言ってくれ』
「それでいいや。可愛い」
『はあ、もういい』

嬉しい時ほど怒っているフリをするのは知っている。触れられない手を伸ばせば、顔をしかめられた。

「うん、可愛い」

怪我をした腕に唇を落とすと、眉を寄せ顔が赤くする。くすくすと意地悪く笑うと今度は本当に怒られてしまった。あまり虐めると本気で怒る。それでも、これも照れ隠し。謝ればすぐに許してくれるし、本当は嫌がっていないものわかる。

『遊矢。すまなかった』
「何が?」
『今日も怪我をしてしまって』
「だから気にするなって。俺はユートが怪我をしたことが気がかりなんだからな」
『お前は有名になりすぎた。それにあまり調子に乗られても困る』
「調子に乗ってるか?」
『すぐに「ユートが〜」だの「俺が守る」だの』
「当たり前だろ。大切な人なんだから」

顔だけで怒るユートの尻目に、目立った怪我に包帯を巻き終わって遊矢は息をついて座り込んだ。傍らにしゃがみ、顔色を眺めては心配する彼におどけてみせると、やっと笑ってくれた。
この笑顔を見ると、やっと一日が終わった気になれる。しばらく声を上げて笑い合い、大の字で寝転んだ。
今日も収穫はない。明日も、明後日も、収穫はないかもしれないが、変わらない毎日が続くだけでも構わないと思ってしまう。
前に進みたい。
何気ない一時が続いてほしい。
大きな2つの気持ちが日に日に膨らんでいく。

「なあ、ユーゴとユーリは?」
『珍しくおとなしくしているが』
「どっちかを呼んでくれない?」
『代わるのか?』
「いいだろ?今日のご褒美がほしいなー……なーんてっ」

言いたいことを理解してくれるのは相性がいい証拠だろう。さすがはパートナーとしていてくれるだけある。無邪気で面妖な笑みに咳払いを残し、「待っていろ」と姿を消した。
静寂に包まれた機械仕掛けの部屋には、低い機械音と無機質な天井だけ。彼がいなくなるだけでこんなにも世界が無機質に見え、冷たく暗く狭く心に迫ってくる。
傷つくことが当たり前の日常で、こんな平穏がいつまでも続くとは思ってはいない。それでもこれだけは変わってほしくはない。

「例え周りが変わってしまっても、俺はお前をいつまでも守るから」

変わらない保証がないこの日常で、唯一その決意だけが救いだった。胸の青い水晶のペンダントが、紫色の光をはなった。

+END

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コミックは2冊買いました

16.5.12




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