ゆぎお | ナノ



鏡にはなれない

ユートが根城としている廃倉庫が、遊矢とユートの約束の場所である。
今日も約束もなく集まっては、ユートとデッキを組んでいたときのことだ。ふと立て掛けてあった、割れた全身鏡。それに写った自身とユートの姿に、遊矢は動きを止めた。

「...ん、どうした?」

動きを止めた遊矢の気配にユートは顔をあげ、ぼんやりと鏡を見つめる遊矢に気がついた。

「鏡が、どうかしたか?」

「いや。俺達、似てるって言われても全然違うよな。」

ユートに向き直り、指を伸ばせば応えるように差し出された手。まるで鏡を触るように、指の先が合わさったと思えば、自然にユートの少し焼けた無骨な指に遊矢の細く白い指が絡まる。答えるようにユートも指を絡めてきたことに、遊矢は頬を赤らめる。
ああ、鏡じゃない。遊矢はホッと息をついた。

「初めは瑠璃を拐った男と...ユーゴとも見間違えたからな。」

少し俯いたのは、罪悪感故か。
2人が出会った瞬間に大喧嘩に似たデュエルが始まり、唖然としていた時のことを思いだし、遊矢もから笑いをもらした。

「はは、だからあんなに仲が悪かったのか。」

「...少し、俺も冷静さを欠いていた。反省してる。」

「あれは少しじゃすまないだろう」そう茶々を入れようとしたが、珍しくぼそぼそ喋るのは本当に申し訳ないと思っている証拠だ、やめておこう。汐らしいユートを慰めるよう髪の毛に頭に指を通せば、猫のようにすりよってきた。

「ま。俺はもう気にしてね!え!け!どっ!」

急に第三者の声が聞こえたと思えば、横から強い力が二人の仲を裂くように割り込んだ。ユートは多少優しく額を押されたが、遊矢においては首をもがんばかりの勢いで頬を押された。
首が回り、グキンと音がしたが第三者、ユーゴは気にすることはない。 絡まる指が離れたところでやっと首への痛みが収まった。

「いったいなぁユーゴ!なんでお前が、この廃倉庫を知ってるんだよ!」

「うっるせえ!お前のやましい下心が電発みたいに伝わってきたんだよ!」

「なんだよそれ!」

おいてけぼりにされて目を瞬かせるユートに、立ち上がりユーゴにいきり立つ遊矢。ユーゴも歯ぎしりをしながら遊矢にガンを飛ばし、怯みも引きもしない。
「トマト!」
「バナナ!」
「全身タイツ!」
「あぁ!?タイツじゃねえ!スーツだ泣き虫!」
「今は泣いてない!」
不毛で幼稚な口論を追うように首を動かしていたユートだが、終わりなき暴言のドッヂボールに疲れて溜め息つく。

「お前たちはよく似ているな。」

「はぁ!?」

見事に重なった怒声に、ユートは思わず吹き出した。
クスクス笑いだしたユートに毒を抜かれ、止まったのをいいことに二人の間に分け入る。

「誰かを笑顔にすることができる。そして何かのために、自分の譲れないもののためなら本気になれる。お前たちはよく似ている。」

微笑んだユートに、遊矢もユーゴも思わず顔を反らしてしまった。
赤面しているのは勿論、ユーゴに至っては唸り声を上げながら顔を押さえている。見慣れていないために、大ダメージだったようだ。

「そんなわけ...」

「ないのか?」

「...ある、かな。」

ユートには敵わない。満足そうに「よし」と頭を撫でられて、嬉しくなってしまったのは内緒にしてほしい。
ユーゴも「俺も俺も!」と近付いてくるところを見たら、多分バレてはいるが。

「でも、確かに否定できねーよな。」

ユートに頭を撫でられながら、ユーゴは言う。
犬のお座りのポーズであるのがシュールだ。すごく指摘した。だが今指摘すると冗談抜きで噛みつかれる。やめておくのが得策であろう。

「な、なにが?」

「俺たちって似てるよな。」

鋭い眼光は見つめる、というより睨み付けるが正しい。 始めは先程の喧嘩の続きかと思っていた。しかし本能か。意図に気付いた途端に遊矢の眼光も鋭くなり、ユーゴを睨み返す。

(だって、同じ相手を好きになったからな)

鏡では、好きになることも、喧嘩をすることも出来ない。

++++
【ゆやユト語り】2人が寄り添いました。ふと相手を触って改めて感じること(体温の違い、手の大きさの違いなど)について語りましょう。

15.9.28

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