展望


 高等部に進学してから初めて、一人で初崎の見舞いに行った。それまでは宍戸や侑士と一緒だったから、二人きりというのは何だか不思議だ。
 けれど、初崎はそんなことを全く気にしないかのように振る舞う。

 知り合ってまだ数ヵ月、出会いはあまり、というか全く良くなかったけれど、初崎は俺を邪険に扱うことはなくて。
 それは俺にとって救いだった。

 病院のリノリウムの床をその嬉しさと有り難さを噛み締めるように歩く。
「そういや、もう出歩いて良いのか?」
「少しだけなら」
「そっか」
 初崎の口数は少ないけれど、俺とこうして話をしている時の初崎は、ちゃんと俺を見ていてくれる。それに、メールを送ればちゃんと返ってくる。だから、きっと嫌がられてはいないのだろう。
 大部屋で落ち着かないのか、ラウンジに行こうと言ったのは初崎だ。何だか良く分からないが、手術をしたばかりの頃はそれを我慢していたのかもしれない。
 俺が初崎とこうして連れ立って歩くなど、誰が予想できただろうか。俺でさえ今こうしている事が不思議な気分だと言うのに。
 千石とは随分仲の良い初崎は、けれどテニスの試合を殆んど見たことが無いらしい。去年、都大会の会場には行ったらしいが、千石が見つからなくて直ぐに引き返したんだそうだ。
 どうせ女子を追いかけていたんだろうと言えば、初崎は多分そうだと相槌を打つ。どうやら、千石とは付き合っている訳じゃないらしい。
 テニスに興味は無いのかと聞けば、運動が苦手だから避けていたという。見るのは構わないらしい。
「じゃあ、初崎が退院したら、跡部に頼んでコート貸し切りにして、テニス見せてやる!」
 それなら大丈夫だろ、と言えば、初崎は頷いた。
「俺のアクロバットプレイ見せてやるからな!」
「楽しみにしてる」
 そう言った初崎の口調は相変わらず、どこか冷たくもあったが(最初は不安だったけれど、いつもそうだと分かって安心した)、何となく楽しそうで、早くそれが実現出来るように願った。


fin.



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -