再会へ


 その人は、新鮮だった。
 目が隠れるくらい長い前髪もだったけれど、何よりテニス部レギュラーだからという特別な態度ではなかった事が。
 終業式の後、部活が始まる前に日吉と一緒に昼食をとるべく中庭へ向かうと、彼女が桜の木の陰から出てきたのが初めての出会いだった。
 遠目に何人かの女子生徒が駆け出して行ったのが見えたのだが、俺はそれよりも、日吉が湯河原先輩以外の女子生徒に、用事もないだろうに自分から声をかけた事に驚いた。二言、三言で終わった会話の後に彼女は保健室へ向かった。
 その後、日吉に邪魔だと言われたけれど、日吉は本当に嫌なら俺が一緒に居ることを許しはしないのを知っている。小さなウッドテーブルもあるのに、わざわざ四人がけのテーブルを陣取ったのは、日吉の分かりにくい許容の表現だ。

 彼女の噂は二年生の間でも囁かれていたのを俺は知っていた。けれど、実際に彼女を間近で見たら、日吉の言うように、そんなもの嘘だと思ったのだ。
 確かに声は抑揚が無かったし、彼女の纏う雰囲気は何処か人を突き放すようなものだったけれど。そもそも彼女が氷帝の生徒だからと言って、テニス部に媚びを売る筈だと言うのは思い込みだったし、何より日吉に言われたように自惚れでしかないんだろう。

「初崎先輩、か」

 いつかまた会えたなら、自己紹介をしてみようか。日吉の友達の鳳長太郎ですなんて。そしたら彼女はどんな風に返してくれるのだろうか。


 今はまだ遠い再会に、俺は思いを馳せている。


fin.



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