まさかの審判転生

 この世界の中学生は、どうやら常人とはかけ離れた力があるらしい。そう悟った俺が思うことは、ただ一つだけ。
「とばっちり食らっても、労災おりるのかな」



 前世とか転生とか、そんなもの信じたことがなかった。けれど今の俺には、前世の記憶はバッチリ備わっているし、その時に持っていた知識もあった。それを利用してテニスの審判になったのは、もしかして死亡フラグを打ち立てる自殺行為だったんだろうか。そもそも俺がジャッジを下している競技は、本当にテニスなんだろうか。
 中学生のテニス大会の審判を任された時は、そりゃあスポーツ少年の頑張りを見守るつもりでいた。それがどうだ、目の前で繰り広げられているのは、中学生にしては大人びている少年たちの、血沸き肉踊る格闘技じみたテニスだ。
 全国大会とあって、なかなかにハイレベルなんだろうなんて思っていた頃の自分に、辞退しろと説教したくなる。大阪代表の学校の試合の審判をしていた先輩など、お笑いの道を行くんだと呟いていた。その輝く目を見て、誰が止められるだろうか。

 そして幸か不幸か、俺は全国大会の決勝戦の審判となってしまった。

「ちくしょー、雨にちょっと打たれただけで風邪引いてんじゃねえよ、あんちくしょう」
 決勝戦の審判をするはずの、珍しく同い年だった奴が風邪によりダウン。白羽の矢は俺に刺さった。辞退したい、と思う反面、やはり審判という役職が好きな俺は、分かりましたとそれを受けた。
「お、関東と同じ組み合わせかあ」
 関東大会の決勝戦は、女子の試合の審判をしていたために見ていなかったが、かなりのものだと話題だった。全国でどんな試合を見せてくれるのか楽しみな反面、できれば審判席ではなく客席か、ローカル局の中継でテレビ越しに見たかったとも思う。重傷者多発のこの大会、きっと誰もが我が身の安全を祈っているに違いない。



 シングルス3は、中学生らしからぬ二人の戦いだった。そのジャッジをしていた時に、元の世界にいた姪のことを思い出した。彼女がハマっていた少年漫画の話をしてきたことだ。その時の俺は、最近は女の子も少年漫画を読むんだなあ、と妙な感心をしたことを覚えている。そう、確かテニス漫画だった。俺がテニスの審判の資格があると知った姪は、やたらテンションが高かったな。
 その時に聞いた名前と、今テニスコートで試合をしている少年の名前が、不思議なことに同じだ。
 今さら気付いたのか、と言われようと構うものか。俺は漫画を滅多に読まない人間だ。姪が好きだというだけで漫画に手を出さなかったのだから仕方ない。
 気合いでボールを相手コートに入れるという、何ともファンタジックな結末のシングルス3に次いで、ダブルス2が始まる。しかしまあ、中学生にしてテニス生命どころか体を削って大丈夫なのだろうか。



 ダブルス2は、そりゃあ悲惨だった。重傷者が出た試合。というか、ハイスピードなサーブは慣れてきていたが、なんだか変身じみたことをやってのける選手は初めてだ。なんだ、色違いって。格ゲーか。
 しかし、悲しいかな、この世界のテニスでは危険球はあってないようなものである。痛々しいと思いながらも、俺は試合中断のコールはできないのだ。ぶっ倒れた眼鏡くん、すまん。



 あの色違いの変身が序の口だと悟ったのは、シングルス2の試合だった。だっておかしいだろ、別人に変身しやがったぞ。シングルス3に出てた奴になられた時は、コールを間違えそうだった。
 そして、思い出した。あれは姪がしきりに騒いでいたイリュージョンという代物と一緒じゃないか。え、やっぱり俺って漫画の世界に転生したのか。いや、偶然だと良いんだが。
 次のダブルス1は、今までの試合からしたら平和だった。ちょっと変わった技はあったけど。さあ、これでシングルス1を見届ければ、と思ったら、選手がコートへ入ってくれなくて泣きたくなった。



20100615


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