マイ・ジーザス!

「よーし席替えするぞー」
 担任のその一言で、我が氷帝学園中等部三年C組は殺気に満ちあふれた。なにこれこわい。
「ただし、お前ら毎回揉めるからな、俺がもう決めておいた」
 さすが担任、うちのクラスを理解していらっしゃる。ブーイングは飛ぶが、一旦席替えをしようにも一週間かかった前科がある。原因は氷帝学園中等部で大人気の、男子テニス部レギュラーが二人もいるからだ。
 一人は、髪を切り爽やかさ二割増しの宍戸亮。もう一人は……騒がしいのに安眠中、クラスのマスコットでもある芥川慈郎。学級委員長の私から言わせてもらえば、芥川慈郎の隣ではブーイングした女子も授業中に眠れやしないんだぞ、と思う。いくら起こさないとはいえ、教科担任がチラチラと芥川慈郎を見ているのを知っている。

 そして、もう一人。

 今は起きているが全く無関係に携帯をいじる、吾妻晶。ある意味派手な金髪に赤メッシュも、氷帝では目立たないが彼女はピアスを耳、どころか口にあけている。見た目通りの自由人。

「よーし、移動しろ」

 ガタイに似合わぬ丸文字な担任が書いた席順に移動していく。芥川慈郎は宍戸亮が運搬している。まさに文字通り。さすがに女子も芥川慈郎を運べないらしい。


「なあああぁ!!最低!」


 叫んだのは吾妻晶だ。
 彼女は芥川慈郎と隣、しかも教卓の目の前である。
「これ以上移動させねえからな」
「ちょ、なんで幹久ひどすぎるよドセンなんて」
 担任の名前は東雄一。幹久は単なるあだ名だ。名字が東だからという他に理由はなく、担任はイケメンに程遠いオッサンなのだ。
 吾妻晶が叫んだおかげで芥川慈郎が起きた。
「え、なんで教卓前にいんの俺」
「いやだあああぁ教卓前なんて」
「お互い知らんだろうが、二人とも睡眠学習派だからな、まとめといた方が起こしやすいだろ」
「隣なんかどうでもいいから!私前の窓際一番後ろの神席が良かった!」
叫んだ吾妻晶を、宍戸亮も芥川慈郎もぽかんと見ていた。この二人、どんだけ自分のクラスを知らないのかしら。
 ミーハーじゃない奴なんて氷帝にも少なからずいるに決まってるじゃないの、先入観は恐ろしい。ちなみに、吾妻晶の睡眠学習はかなりの割合で前日遅くまでテンションが高いのが理由だ。芥川慈郎のように、寝過ぎではなく寝足りないだけらしい。昼休みに電話をしているのを聞く限り。
「あー、俺変わってやるよ」
 結局、吾妻晶がやかましいからか見かねたからか、窓際一番後ろの宍戸亮が手を上げた。三人を除いたクラス全員、宍戸亮にご愁傷さまと思ったに違いない。
「マイ・ジーザス!」
「へ?は?」
「ありがとうあなたは神だね!えーっと、穴戸くん?だっけ?」
「ちげええぇ!宍戸だ!」
 吾妻晶はテンションが上がると始末に負えない。そして、クラスメイトの名前だって半分はうろ覚えだ。
 だが、覚えたら終わりだ。彼女のセンス溢れるあだ名の餌食だ。幹久も彼女がつけた。

「ジーザス宍戸!」
「なんだそのレスラーみたいな名前!」
「宍戸・ジーザス・名前!」
「亮だ、宍戸亮!」



 結論、宍戸亮は学習しないらしい。



「宍戸・ジーザス・亮!」



 ファン含め、爆笑と共に、彼のクラスでのあだ名が決まった瞬間だった。


end.


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