熱砂に埋もれた遺跡


 セイは、砂漠にあるザオ遺跡にいた。任務だと言われてバチカルまで向かえばタルタロスに乗り込むようにと指示され、ラルゴ以外はほぼ初対面という状況のまま、どこからか連れてきた導師イオンを加えてそこへやって来たのだ。
 ラルゴ以外に六神将が二人もいる所を見ると、どうやら彼らが行うのは重要な任務らしい。セイはイオンを気遣いながら彼らの後について遺跡の奥へと進んでいく。行く手を阻む魔物はラルゴやアッシュ、シンクが撃破していくため、セイは背後を警戒しながらイオンを守るだけで済む。
「イオン様、そこ、足元にお気をつけ下さい」
「はい」
 ようやくたどり着いたのは最奥だろうか、所々風化し崩れた遺跡からは伺い知る事は出来なかったが、開けたその場所の突き当たりには淡く光っているようにも見える扉がある。セイはそれを見て、「計画」が始まるのだとようやく実感した。

 ついに幕が切って落とされた「計画」の始まりに、彼は小さく笑む。延々待ち望んだものを、みすみす逃すわけにはいかないのだ。

 微かに聞こえる足音に、セイは腰に携えた双剣の柄に手をかける。シンク達も気付いたのだろう、扉から視線を外して振り返る。
「導師は儀式の最中だ、大人しくしていて貰おう」
 ラルゴが己の得物である大鎌を構えてその足音の主達へ近付いた。アッシュはイオンにつき、シンクがラルゴと同じように歩み出ていく。やってきた人々を見たセイは僅かに目を見開いたが、目隠しに隠されているため、誰も気付かなかった。
「悪く思うなよ、これは上官からの任務だ」
 言い合いどころか、お互い力ずくでもと言わんばかりの緊迫感に、セイはそう呟きながら剣を抜いた。良く見れば、対峙している相手には死霊使いの姿。封印術を食らったと聞いてはいるが、油断はできない。
「炎龍牙」
 セイの双剣を炎が包み、振り上げた二刀から放たれた燃え盛る衝撃波が、地を這うように死霊使い目掛けて駆けていく。彼は難なく避けたが、その隙を狙ったシンクの攻撃がかする。当てるつもりだったそれを避けられたシンクは舌打ちするが、すかさず距離を取って詠唱を開始した。
「シンク、隙だらけだよ!臥龍撃!」
「黒龍十字」
 無防備となる詠唱の隙を狙った導師守護役の巨大なぬいぐるみによる攻撃を、セイは双剣で相殺した。靄のような闇が十字を形作って放たれる。直後、詠唱を完了させたシンクの譜術が死霊使いとその側で矢を放っていた金髪の女性に直撃していく。
 神託の盾騎士団の制服を着た女性が、すかさず治癒術をかけて体制を整えていき、反撃を始める。ラルゴにはアッシュによく似たレプリカと、金髪の青年が畳み掛けている。状況は芳しくないが、セイがちらと扉の方を見るとそれは既に開いていた。目的は達したと悟った彼は、早々と戦線離脱した。
 ほどなくして、ラルゴとシンクが地に膝をつく。彼らをだらしないと一喝したアッシュは、剣を抜いて突撃していった。セイはその隙にイオンへ近寄り、その身を支える。キィンと響く剣同士がぶつかる音、そして全く同じタイミングで繰り出される同じ技。さすが被験者とレプリカだとセイは感心しているだけ。
 無意識のうちに何か気持ち悪さを感じ取ったのか、レプリカが呆然とアッシュを眺めて叫ぶ。それに苛立ちを感じたアッシュは怒りをぶつけるように吐き捨てたが、途中でシンクがそれを止めた。今は明かす時ではないのだから当然だとセイは内心呟く。
「取引をしよう」
 さすが参謀総長と言うべきか、シンクはレプリカ達に取引を持ちかける。どちらにせよ、彼らの中に「計画」に必要な駒がいるのだから生かしておかなければならない。

 イオンを返す代わりに、先に遺跡から出ろ。攻撃を仕掛ければそれは反故にする。

 その取引に応じるため、セイはイオンの手を引いてレプリカ達の方へ連れて行き、そうしてシンク達の元へ戻った。何人かがセイを怪訝そうな目で見ていたのだが、彼は何処吹く風。さあそのまま立ち去れというシンクの言葉に、レプリカ達は渋々と言ったようにそこを後にしていく。
 ナタリア、と呼ばれた女性にラルゴが反応したり、それにアッシュが突っ掛かったり、シンクも何か感付いたように次の行動を決めているようだが、セイは気にすることなく暢気に伸びをした。ここでしばらく時間を潰すのは痛いため、セイは先程まで戦闘していた場所にひらりと飛び降り、遺跡の出口に向かって歩き始める。
「じゃ、俺は先にここを出るよ」
「おい、勝手な行動は」
「アッシュ、こいつは元々別の任務のついでに来ただけだ」
「遅れると何かと面倒なんだ、悪いね」
 セイはひらひらと手を振りながら立ち去っていき、アッシュは舌打ちした。しかし、彼はシンクが来るまでは参謀総長のポストにいたことを考えると、ヴァンの「計画」に加担している可能性が高い。やはりレプリカを使うしかそれを潰す道はないかと、アッシュはさらに決意を固めた。



 セイが遺跡を抜けている頃、イオンを奪還したレプリカ達は本来の目的であるアクゼリュス救済のため、砂漠の中を一路ケセドニアへと向かっていた。道中、ティア・グランツがぽつりと疑問を溢す。
「それにしても、六神将と一緒にいたのは誰だったのかしら」
「彼も強かったですわね」
 ティアに同調するかのように、ナタリア・L・K・ランバルディアもため息と共に言葉を落とす。導師守護役のアニス・タトリンも彼を知らず、しかしその場馴れした戦いぶりに舌を巻いていた。
「彼はセイ・フウレイと言う元参謀総長です」
 イオンが彼女達の疑問に答えを提示する。シンクと入れ替わるように参謀総長を辞したセイという男は、決して表舞台に立つことはなく、常に部下を通じて作戦を伝えていた。その姿や名を知る下級兵士は、彼の退任と共に地方での任務を行っているカンタビレ率いる師団へと吸収されたために、殆んどがダアトから姿を消したのだという。
「それほど秘匿したがっていた人間を表舞台に引っ張り出したということは、何か意味がありそうですね」
 イオンの話を聞いたマルクト軍大佐ジェイド・カーティスは、ともかくもセイや六神将の目的が不明瞭な今、詮索よりもアクゼリュスへ向かうことが先決だと言い、彼の話題を御開きにした。セイと直接対峙しなかったレプリカ、ルーク・フォン・ファブレと、彼の使用人であるガイ・セシルも彼について気になる事があったようだが、ジェイドの言葉に暑い日差し照り付ける砂漠を抜けることに意識を向けた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -