異変

「旧校舎七不思議に詳しい奴は挙手や」
 四階へ向かう階段の手前で、御門は足を止めて口を開いた。ちゃんと全員ついてきていることは跡部が確認済みだ。途中で何もなかったせいか、向日も恐怖感が少しだけ消えたらしい。
 御門の問いに真っ先に手を挙げたのは日吉だ。その事を誰も意外に思わないのは、彼が怪談話を始めとするオカルト好きだと知っているから。余談だが、日吉のする怪談話は本当か嘘か分からなく、かなり怖いとテニス部では評判だ。
「この階段の踊り場の鏡を見ると、引きずり込まれるという噂です。他の七不思議は人によって違うわりに、これだけは皆外さないですよ」
「そら、その鏡が出入口やからや。色んな奴らが出入りしよるで」
 御門は笑っているが、誰も笑わなかった。特に跡部は、何かを探るように御門を眺めている。不穏な空気が、辺りを色濃く染めていく。
「御門、お前」
「ちょっと出入口閉じるのに、中のボスと交渉せなあかん」
「御門!」
「跡部、そのために俺を呼んだんやろ?やから、俺だけが行けばええ話や」
 皆先に帰れと、御門は真剣な面持ちで告げた。誰も何も言えず、ただ階段を上っていく御門を、じっと見送るしか出来なかった。


「日吉、引きずり込まれる鏡は何を映す」
「鏡はその人の影や本性を映すと言われています。妖怪が人間に化けても、その鏡には正体が映るんです」
 鏡の中では正体しか現せません。日吉は、跡部にはっきりと告げた。それを聞いた跡部は、舌打ちをしてから踊り場の鏡を見た。そこには既に御門の姿はなく、鏡は何もなかったかのように鎮座している。
 御門の言う通り、跡部は旧校舎の七不思議を解決するために彼を呼んだ。それは御門にしか出来ないことだったことも事実。何も間違いではない。だが、跡部の制止を振り切ったレギュラー達がついてきてしまったのが、一番の問題だ。
「お前らのせいで、ややこしくなりそうだ」
 鏡が鈍く輝くのを視界に入れながら、跡部は盛大なため息をついた。鏡の異変に気付いたのは、跡部を始め、御門に霊感があると言われた滝と忍足と日吉だけ。残りは、四人の視線の先を追っても何が何だか分かっていない。
「元凶は甘くねえって事だろう、御門」
 跡部が呟いた瞬間、鏡から溢れた光が辺りを包んで、全員の意識を奪っていった。


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