侵入

「御門、待たせたな」
「ちゅーか何人引き連れんのや」
 滝からの、部活終了の連絡を受けた御門が旧校舎入り口に着くと、そこには跡部や滝を始め、数人の男子がいた。てっきり跡部だけかと思っていた御門には、予想外の事態だ。
 未だ手にしていた袋から金平糖を食べながら、御門はその場にいる男子を一通り眺めた。御門も見たことのある生徒ばかりで、よくよく考えれば彼らも滝や跡部と同じテニス部だ。しかも実力主義の競争を這い上がったレギュラーたち。時折全校集会で表彰されているのを、御門は見たことがある。
「今日は仏滅、さらには朔月、朝の星占いはビリッケツ、さらに旧校舎はマジもんやし、最悪やくそじじいに呪われたんや」
「は?旧校舎がマジもんってお前どういう事だよ」
 バリバリと金平糖を噛み砕いた御門は、ぶちぶちと不満を漏らした。それを聞き逃さなかったのは、集まったメンバーでも特に怪談嫌いの向日岳人。彼の顔は青ざめている。
 御門は、彼らの名前を良く知らないことを思い出したが、気にしなかった。氷帝で会う確率など低いし、そうそう仲良くするわけでもないと踏んだのだ。
「跡部と滝と眼鏡とパッツン、霊感あるし他の奴らと離れたらあかんで」
 眼鏡こと忍足侑士、パッツンこと日吉若の文句を、御門は聞き流して金平糖をさらに口に放り込んで噛み砕いた。跡部は呆れながらも、彼の従者然とした樺地宗弘に、旧校舎の扉を開けさせた。



 旧校舎は元々人気がないせいか、少し埃っぽい。明かりを付けて歩き始めてかれこれ二十分。歩きながら御門は、跡部にメンバーの名前を覚えさせられた。
 怪談嫌いな、前髪がブイ字に揃うマゼンタカラーの向日。伊達の丸眼鏡をかけている、青みがかった髪が少しだけボサボサに見える忍足。薄茶の髪を綺麗に切り揃えた、日吉。さらに樺地に背負われている、金髪の柔らかそうな癖毛をした芥川慈郎。青いキャップを被る宍戸亮。背の高い、銀髪の鳳長太郎。
 御門にとって一気に覚えられる限界を越えた人数に、彼は明日には忘れる自信だけを持った。入るときにも食べていた金平糖は、もうすっかりなくなってしまった。
「タチ悪いでこれ」
 御門は眉間に皺を寄せながら呟いた。跡部になぜこんなに引き連れてきたのかと文句をつけたい。切実に思った御門だが、目的を果たすためにタチの悪い元凶へ向かって歩みを速めた。


 全ては和菓子と玉露のため。


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