前哨

 御門啓次郎は、騒がしいクラスメイトの噂話に耳を傾けながら、もそもそと購買の戦利品、菓子パンを食べていた。都内でも有名な私立中学、氷帝学園中等部の購買となれば、たかが菓子パン、されど菓子パンであり、毎日争奪戦が沸き起こる美味しさだ。それを噛み締めながら味わっていると、クラスメイトの滝萩之介が御門の机に弁当箱を広げた。
「御門、今日は買えたのかい」
「せやで、滝。一週間以上負けばっかやったし、久々のメロンパンや」
「跡部と知り合いなんだから、頼めば取り置きしてくれるんじゃない?」
「いやいや、達成感なくなるし、跡部と校内で会わんもん」
 御門と滝は気が合うらしく、クラスで特に仲が良いため、いつも一緒に昼食をとっている。生徒数の多い氷帝で、共通の知り合いは生徒会長の跡部景吾という少し変わった間柄だ。しかし滝は、所属する男子テニス部の部長として跡部を知っているが、御門は家としての付き合い上、跡部とは顔見知り程度。広い校内で跡部と御門の行動範囲は被らず、家からの頼み以外では顔を会わせない。
「その跡部から、今日の夕方、旧校舎を調査するから付き合えって伝言」
「あー、さっき女子が騒いでた怪談やろ、旧校舎の七不思議。ほんまに七つあるんやろか」
「あと、俺達今日は部活だから、終わるまで待ってろってさ」
「へいへい」
 御門は、メロンパンの最後の一口を飲み込んで、時間をどう潰すか思案に暮れた。彼は入学当初から帰宅部だ。わけあって東京で一人暮らしをしているため、免除されただけだが。



 放課後、教室で滝を見送った御門は、鞄から携帯を取り出した。本を読む趣味はなく、ゲームもやらない彼にとって一番の時間潰しだからだ。
 ついでに、氷帝近くの和菓子屋、花咲堂の金平糖を取り出した御門は、スナック菓子やチョコレートの類いよりも和菓子を好む、少し変わった男子だった。
「あ、跡部に花咲堂の栗蒸し羊羮買わせたろ」
 ついでに高級玉露やな、と笑う御門は、中学生らしい表情をしていた。跡部に要求するものは、少し大人びているが。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -