暴かれる一端


 フィアメントは今現在、キムラスカの首都バチカルの王城、さらに言うなら謁見の間にいた。
 オアシスからザオ遺跡のセフィロト、外殻大地を支えるセフィロトツリーの制御盤での作業を終えてケセドニアへ戻った一行は、エンゲーブからケセドニアへと徒歩移動が厳しい者達をアルビオールで避難させていたノエルと合流、その後魔界の空を見たジェイドの意見により、ダアトへイオンを訪ねた。そこまでは何ら問題はなかったのだが、秘預言をイオンと共に確認した後に神託の盾騎士団に見つかり、六神将とモースに捕らえられた。
 いかんせん、ノエルを人質にされては分が悪く、大人しく捕まり、バチカルへ連行されたのである。
 ナタリアとルークは別室に捕らえられ、他の面々は恐らく牢獄だろう。フィアメントは考えながらインゴベルトと相対していた。
 フィアメントは後ろ手に手錠をかけられ、武器も奪われている。さらに六神将が王の脇にいるとなれば、抵抗するにも難しい。
「貴殿に手荒な真似はしたくなかったが、致し方あるまい」
 インゴベルトがフィアメントの処遇を言い渡そうとしたその時、謁見の間の扉が勢い良く開いて囚われていたはずのルーク達が飛び込んできた。ナタリアがインゴベルトに向かって叫ぶ間に、ガイがフィアメントの手枷を外す。
 インゴベルトは僅かな葛藤の後にナタリアを突き放し、控えていた六神将の男が武器を構えた時、アッシュがやって来てそれを引き付けた。未だ気持ちが落ち着かないナタリアを引き摺るように、フィアメント達は王城から脱出した。
 途中、ルークの自宅でもあるファブレ家お抱えの白光騎士団と、そこへ仕える庭師であり、ガイの剣の師でもあるペールの助力もあり、市街地まで抜けることができた。フィアメントは白光騎士団から奪われていた武器を受け取ったが、どうやらアッシュがルークに扮して返しておけと伝えたらしい。
 市街地では、ナタリアが王族として為した事業に感謝する市民達や、やはりというかアッシュの助力を受けた。ナタリアの血が王族本来のものであろうとなかろうと、市民達の助けとなった事業を取り仕切ったのは彼女であることに変わりはないのだと、声高に叫んだ市民達の言葉はいかにナタリアが愛されていたのかを如実に表していた。



 バチカルからイニスタ湿原を抜けて、ベルケンドへ辿り着いた一行は、随分と疲弊していた。ただでさえ湿気の多い滑る湿原で、自然の結界たるラフレスの花粉により閉じ込められた魔物に追い回されるオマケがついてきたせいである。
 そんな疲労感を癒す間もなく、神託の盾騎士団がルークをアッシュと間違えて呼び出された。そもそも髪の長さからして人違いだと言うかと思えば、ジェイド曰く今回の旅の黒幕らしき男との接触の機会だと、大人しく兵士についていく。
 余談だが、ルークの苦肉の策、しかし似てないアッシュの物真似でも兵士は人違いに気付かなかった。恐らく彼はさほど昇進出来ないだろう。



 そんな兵士の勘違いのおかげで、ルーク達は神託の盾騎士団首席総長であるヴァン・グランツと、ベルケンドの研究所にて対面を果たした。姓から分かるように、ティアの実兄だ。彼の傍らには六神将、リグレットもいる。
 下がらせますかと問うリグレットに、ヴァンは首を横に振った。そうして話をするも、互いの道が重なるように思えない。平行線のままの会話の最中に、今度こそアッシュがやってきたが、彼とてヴァンと袂を分かつような考えだ。
 すれ違うままの兄妹の考え。そしてルークを、アッシュの代用品、むしろそれ以下の捨て駒と容赦無く切り捨てるヴァン。さらに、ガイへ意味深な言葉を投げ掛けた後、彼はフィアメントへ目線を合わせた。
「貴公ともあろう方が、何を血迷ったのですか」
 周囲の視線が痛いが、今のフィアメントはそれどころではなかった。彼がヴァンを見る目は鋭さを増していく。
「我々は淘汰された。それだけだ」
「本当にそうですかな?」
「黙れ」
 フィアメントの低く唸るような声にも動じずに、ヴァンはせせら笑い言葉を続けた。
「貴公も私達と変わらぬではないですか、人間、引いては預言に狂わされた」
「だからといって俺は見境無く当たり散らす真似はしない」
「まあ良いでしょう、我々は貴公をいつでも歓迎します」
 ヴァンの言葉に何も返さず、フィアメントは一足早く研究所を後にした。それを追うように、ルーク達も立ち去っていく。



 フィアメントは研究所の入り口で一人立ち尽くしていた。その姿はルーク達をも拒絶するような冷たさを纏い、瞳の奥に燃える怒りを湛えている。自身のことはフィアメント本人が良く分かっているのだ。
 ヴァンに言われるまでもなく、フィアメントは預言に翻弄された結果、今も燻るどす黒い感情を持て余している。とうの昔の話だと言い聞かせ、一人宥めている事も、変えようのない事実だ。そうして生き続ける事は、かつての仲間への弔いでも何でもなく、自分の自己満足でしかないと分かっている。自ら後を追うことなく生きる事も。
 わざわざ明かすでもないが、それを知られた所で構うものかと思っていたはずのフィアメントは、今ルーク達に知られる事を畏れていた。
 フィアメントを追うように研究所から出てきたルーク達は、誰もが彼に声をかけられない。ただ一人、ジェイドを除いて。
「フィム」
「忘れろ、全てとうの昔に終わった事だ」
「ですが、貴方は今も何かを激しく憎んでいる」
「当事者は俺しか残っていないにも関わらずな」
 ジェイドの疑念を否定せず、フィアメントは自嘲した。気まずい沈黙の中、フィアメントはルーク達を見ないままに何処かへ行ってしまった。
「追わないのか」
「ガイ、私はそこまで優しくはないですよ」
「ま、相手がフィムだからなあ」
 ガイは確信していた。フィアメントは、ジェイドにもう十分だと言われない限りは、自分達についてくると。だから、今追いかけずとも彼は戻ってくる。何も文句を言わず、黙々と借りを返す、フィアメントは律儀すぎるほど律儀な人間なのだから。ガイは、フィアメントに対して何故か世話を焼きたくなるんだよなあ、と理由も分からないまま嘆息した。
 かたや、フィアメントの同行期限を決める権限を何故か持ってしまったジェイドは、正直彼を手放すのはいつでも良いと思う。しかし、戦力的には惜しいし、何より彼に対する好奇心は全く満たされていない。しかし、そう考えること自体がフィアメントを気に入っている証拠ではないか。全く自分にも困ったものだと思いながら、ジェイドは苦笑するだけだ。
 さて、ルーク達一行の中でも特に落ち着きを見せる者たちの複雑な心境は、誰も知る由がない。しかし、この気まずい沈黙をどうにかしたいという点で、ジェイドとガイを除く全員が一つになった。






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