あと僅か2pで君の虜/ロドキア(エレハン)
 

「キアラのお母さんてすごい人なんだな」
「でしょ!?」

オレンジ色の髪の毛を靡かせ、画面の中で華麗に舞うその姿は、実に優美であった。ほぅ、と感嘆の溜め息と共に零した言葉を拾ったのは、同じ髪の色をした少女。
その眼差しは画面に映る女性に負けず劣らずきらきらと輝いている。そして彼女は「ママはあたしの自慢なの!」と誇らしげに、そして頬を染めて少し恥ずかしそうに笑った。

「綺麗な身の熟(こな)しだな。特に先程のヘリから手を伸ばして落ちた仲間を助けるシーンはちょっとやそっとじゃできることじゃない」

毎日欠かさずトレーニングをしている身としては、とても尊敬に値する。あの細くしなやかな腕のどこに、あれほどの筋力があるのだろうか。
きっと彼女もまたトレーニングを怠っていないことが窺(うかが)える。

「…へぇ、アンタよく分かってるじゃないの」

すると彼女は一瞬だけ間を置いて、何度か瞬きをしたあと、感心するように僕をじっと見つめた。その射抜くような碧眼(へきがん)の双眸(そうぼう)に僕の頬は勝手に熱くなる。
そんなカッコ悪いところを彼女に見られたくなくて、すぐさま目線を画面へと戻した。無情にも映画はもうすでに終わっていて、苦し紛れにごほっと一つ咳払いをする。

「…素晴らしい作品だったな」
「あ、もう終わっちゃったんだー…」
「また見ればいいさ」

彼女がソファの背凭(もた)れに、ぽすっと背中を預ければ、先程まで触れそうで触れなかった焦れったい距離がますます離れる。少しの物足りなさと、同時にふわりと彼女の長い髪の毛から香った甘い匂いに心臓がぎゅうっと締め付けられた。
ピッとリモコンを操作して、映像を無にする彼女の白く細い指先。彼女は続けてなにかをいろいろ語っているようだが、まったく耳に入ってこない。自覚のある上の空とは、参ったな。

「…でね、幹部との撃ち合いで弾が左肩を掠めるんだけど、そのときのママがすっごくかっこいいの、ってロドニー?聞いてる!?」
「あ、ああ、その…首に巻いていたスカーフを素早く止血に使ったところがとてもかっこよかったな」
「でしょでしょー?さすがママよね!」
「そうだな」

自然に身を乗り出し、僕の膝にこれまたごく自然に置かれた彼女の両手。そこから伝わる温もりに心臓が破裂しそうなくらいドキドキと脈を打っている。
少しばかり近すぎやしないか、と辟易するが、実はこの距離が心地よかったりする。彼女を傍に感じる度、幸せな気持ちになれる。

「あ、お茶おかわりする?」
「っあ、ああ…、じゃあ頼む」
「はいはーい…ぅひゃあッ」
「!」

突然、彼女の長い睫毛、澄んだ碧眼、白い肌、引き結ばれたさくらんぼのような唇、整った輪郭が焦点も定まらないような距離にあった。お互い目を丸くして見つめ合うこと数秒間。
どうやら彼女は立ち上がろうとした瞬間、ソファについた手を滑らせ、僕に覆い被さるように転んでしまったらしい。僕は僕で、そんな彼女の体を咄嗟にしっかりと抱き留めていた。

「あっ、ごめっ、ロドニー…」
「っ、大丈夫か!?キアラ!怪我とか…」
「すっ、するわけないでしょ!?」

キアラはがばっと立ち上がり、それに伴い彼女の体温まで逃げていく。少し名残惜しいと思ってしまったが、彼女がずっとあのままの状態でいさせてくれるはずがないのは分かり切っていることだった。
そして彼女はくるっと体を反転させ、僕に背を向けたまま「だってロドニーが受け止めてくれたんだからっ…」と、ぼそっと呟く。その声はとてもか細く、けれどもしっかりと僕の耳に届いた。

「…キアラ」
「わっ!ちょ、ロドニー!?」
「キアラ、やっぱり僕は君が愛しい」
「っ、」

そんな彼女を後ろからぎゅっと抱き締めると、顔を真っ赤にしてわたわたと暴れ出す。しかし僕の告白を聞いた途端、彼女の体の動きは止まり温和しくなった。
そしてくるっと顔だけこちらに向けて「バカ」と呟いた君の横顔が仏頂面でも、耳まで熟れた林檎みたいなのは、期待してもいいということなのだろうか。
いや、期待してしまうよ。



(初めての口付けはいっぱいいっぱいで)
(空は君と同じ夕日色をしていた)

 
 



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