どんな寒さにも耐えられる/カナタマ
 
 
「さっぶ!」
「はぁ、もう冬だね」
 
バンプアップの扉を開けると途端にひやっとした冷気が火照った頬を撫でた。吐き出す息は白く、まるで紫煙のようで折角アルコールで温めた体も一気に冷めてしまいそうだ。
カナエはしみじみと呟き、背中を丸めてコートのポケットに両手を突っ込んで、星の見えない深夜のシンジュクの夜空を見上げた。乾燥した空気がカナエとタマキを包む。
 
「へっくしゅん」
 
カナエよりあまり厚着をしてこなかったタマキは当然この寒さに耐えきれず鼻先を赤くして、すんっと鼻を啜(すす)った。そういえば一昨日からぐっと冷え込むと、天気予報のお姉さんが言っていたことを思い出してマフラーでもしてくるべきだったかとタマキは後悔する。
ジャケットのポケットに手を突っ込み、やらないよりかはマシだと中で拳を作った。しかし薄手のジャケットに、開いた首もとからすーすーと無情にも風が通っていく。
 
「タマキ君。手、繋ぐ?」
「やだ。だってお前の手、俺より冷たいじゃん」
 
寒さには強いが意外にも冷え性なカナエの手は、タマキよりも冷たいのは事実だった。別段、タマキの平温が高いというわけではない。かと言ってカナエの平熱が低いわけでもないのだが。
 
「手が冷たい人は心があったか、」
「迷信だ迷信!」
 
それではまるで自分の心が冷たいみたいじゃないか、とタマキは平生少しばかり内心で憤っていた。そして自分は子ども体温なのではなく、新陳代謝がいいだけなのだ、とも思い込むようにしている。
以前アラタに「タマキちゃんはいつでも温かいね」と言われたことを実は気にしていたりしていたからだった。
 
「ふふっ」
「…なに笑ってんだよ」
 
意味もなく(いや、意味があるからなのか)笑ったカナエを、タマキは訝(いぶか)しげに見上げる。その顔は少し不愉快そうだった。そんなタマキの表情を見て、カナエはまたクスクスと笑う。
段々とタマキの機嫌が悪くなっていくのを見計らって、カナエは眉を下げ、ごめんごめんと困ったように謝った。しかしその顔は未だに笑顔で。それがさらにタマキの機嫌を損ねていくのが手に取るように分かった。
 
「ムキになってかわいいなぁって思って」
「かっ…!」
 
瞬間、カァッとタマキの頬が薄紅色に染まる。かわいくない、ムキになんてなってない、からかうな、言ってやりたい言葉はたくさんあったが、ここで反論したらまた笑われて終わるだけだ、と喉まで出掛かったものすべてを飲み込んで、ただじとっとカナエを睨んで、すぐに顔を逸らした。
 
「少しは温かくなったかな?」
「…さぁな」
「耳、真っ赤だよ?」
「…っ、うるさい」
「寒さのせいだけかな?」
「カナエのくせに、」
「うち来る?」
「…、バカナエ」
 
まったく噛み合わない二人の会話。けれども彼らの手は結局どちらともなく自然と繋がれた。
そしてカナエは自分のコートのポケットに繋いだタマキの右手ごと突っ込んで、カナエの自宅に向かって二人は歩き出す。
やはり体感するカナエの温度は冷たくて、タマキの手の方が温かい。しかし、タマキにはもうそんなことはどうでもよかった。
 
 
(どうかドキドキと高鳴る心臓の音がカナエに伝わりませんように)
 

 
 
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