禁断の果実5
 

「よぉ」
「だっ、れ…?」

まるで身を案じるかのように後ずさって、突然現れた黒い服を着た男、ヒカルにタマキは怯えた目を向けた。当然の反応である。
ここ最近、タマキずっと男という生き物を警戒し、拒絶していた。それはヒカルとカナエのせいだと言っても過言ではない。立て続けに男に犯されたあの出来事は、屈辱でもあり、そしてとても恐ろしい体験であった。

「覚えてない、か…まぁ、無理もねぇな」
「っ!そ、の声、は…っ」
「そんな顔すんなよ。誘うにはまだ早いぜ?」
「!?」

もしかして、とタマキが言うよりも早く、ヒカルはタマキの手を引いて有無を言わせず再び連れ去る。しかし先日と異なるのはヒカルがタマキに自分の存在を知らしめたこと。
怖じ気付いたタマキの震える体を抱き締め、ヒカルは堕天使の姿に戻る。信じられない、とその非現実的なヒカルの背中に存在する鳥のような羽にタマキは双眸を大きく見開いた。

「俺は人間じゃない」
「っあ、悪魔…?」
「そんな大層なもんでもねぇよ。ただの堕天使だ」
「だ、てん、し…?」

確かに実在するその翼が大きく羽ばたくと、そのままタマキを抱き抱え、空高く飛び上がる。急な浮遊感にタマキは思わずヒカルの服にしがみついた。ヒカルもタマキを離すまいと、しっかりと腰を抱き、右手を宙に翳(かざ)す。
ゴォッという音と共に彼らの目の前にブラックホールのような風穴が開く。そして大きな風が舞い上がると同時に、二人はその歪んだ空間に吸い込まれるようにして姿を消した。

「しっかり掴まってろよ」
「ど、どこ、行く気だ…!」
「タマキのそんな強気な態度もいいけど、きっとそんなこと言ってられないような場所だろうな」
「な、んで俺の名前…」
「俺はヒカルだ。よく覚えておけよ」
「だから、なんで俺の名前知ってるんだよ…!」

ヒカルの声かけを皮切りに、暗い空間の中を飛び続けながら会話が繋がっていく。そのスピードは尋常ではなく、強い向かい風でタマキはまともに目が開けていられなかった。
恐怖や非現実的なことよりも疑問を投げかける方が先決だと、タマキは途切れ途切れにヒカルに問いかける。しかし返ってくるもののほとんどが見当違いのものばかりで、会話がまったくと言っていいほど成立しない。

「さて、着いたぜ」
「、ここは…?」
「今夜は丁度サバトらしい。だが、おまえを他の奴らに見せるわけがない。特にサタンなんかが見たら…」
「…サバト?サタン?」

闇夜のような漆黒の空は厚い雲で覆われ、薄暗いそこにぽつりと黒い大きな門と、奥には城のような建物。ヒカルの口から飛び出る聞き慣れない単語に、タマキはオウムように聞き返す。
ようやく地面のある場所を踏み締めると、急な反動でよろけそうになる。賺(すか)さずヒカルがタマキの腰を抱え直し、また強引に手を引いて、ずかずかと門を潜(くぐ)った。

「ちゃんと個室もあるから安心しろ」
「お、おいっ…!」

タマキにはまったく話が読めない。聞きたいことは山ほどあるというのに、ヒカルのわけの分からない返答が理解させてくれないのだ。
そして建物の中に入り、とある一室に通されると、タマキはすぐにベッドに押し倒された。もしこんな状況でなければ、まるで高級ホテルのようなその部屋に、はしゃいだだろう。生憎と薄暗いその部屋は、怪しげな置物で雰囲気は台無しである。




(さぁ、快楽に溺れようじゃないか)
(共に奈落の底まで堕ちよう)



(続く)

 
 
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