禁断の果実4
 


「おい、」
「…」
「聞いてんのかよオイ」
「…」

先程の反応でカナエはすべてを悟ってしまった。ヒカルもまた、自分と同じ人間を愛してしまったのだと。
そんな者と喋りたくはない。喋ることなどない。と、カナエは無言のまま俯いてた。
癖のあるブラウンの髪の毛が邪魔して表情すら読み取れない。

「くたばったか?」
「…」
「なら好都合だ。タマキは俺が貰うぜ」
「!」

いつまで経っても口を開くどころか、顔も上げようとしないカナエに痺れを切らしたヒカルは一つ舌打ちをして、カナエを挑発するような言葉を述べる。その発言に、今度はカナエがぴくりと反応を示した。
軽く目を見開き、噛み締めた下唇からは鮮血が伝う。どうしようもできない非力な自分が情けなくてカナエは悔しくなった。
そして次の瞬間、ジャラジャラと鎖の擦れる音が聞こえたかと思うと、ドンッという地響きと共に壁に大穴が開く。カラカラと壁の欠片が残骸となって床に散らばった。咄嗟に顔を上げると、厚い雲で覆われた漆黒の空に映えるオレンジ色が妖しく靡く。

「あばよ、ヘタレで偽善者な天使サン」
「っ、」
「そこで指でも銜えてろよ」

バサッと翼を広げ、颯爽と飛び立っていくヒカルの後ろ姿を、カナエは呆然と見つめたまま動けなかった。我に返った頃にはヒカルの姿はもうどこにも見当たらず、ひゅうと冷たい風が頬を撫でる。
この壁はちょっとやそっとじゃ壊せないはずであるのに、ヒカルはいとも簡単に穴を開け、さらにカナエが出られないように結界まで張っていった。この短時間にここまでできるなんて、彼はなんて策士なんだ、とカナエは少し恐ろしくなる。

「…っ、タマキ君…!」

しかし今は絶望している場合ではないと、カナエも白い翼を広げ、その精密な結界を精神を集中させて力ずくで破った。ヒカルはきっとタマキの元に向かったに違いない。
くよくよと迷っている暇などなかった。答えなど、もうとっくの遠に出ていたのだから。タマキを他の誰かに奪われるくらいならばいっそ、拒絶されてでも奪い返す。そう決意してカナエもまた、漆黒の空へと飛び立っていった。



(歪み軋む歯車はゆっくりとゆっくりと回り始めた)



(続く)

 
 
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