いい旅、夢気分2/タマタマ
 
 
 
タマキには分からなかった。どうしてタマキが怒るのか。
キノコなんて別に美味しくもないし、素人が見つけたキノコなんて危なくてそう簡単に食べたくない。第一タマキはそんなにキノコが得意な方ではないはずだ。だったら俺のキノコの方がよっぽど、と思案を巡らせていると、タマキは不安なことに気が付いた。
 
「(オレのタマキが他のヤローのキノコを銜(くわ)えさせられたらどうすんだよ…!)」
 
タマキがなんと言おうと、やはり自分が傍にいなくては、とタマキは兄のもとに向かおうとしたそのとき。
 
「あっ、タマキ…」
「タマキッ…!う、わっ…!?」
「っ、タマキーッ!」
 
運悪く、舗装もされていない道だったため、タマキが崖から落下してしまった。それを見たタマキはすぐに崖の梺(ふもと)に駆け寄り、下にいるタマキの名を必死に叫んだ。
 
「ッ、いってぇ…」
「タマキ!タマキ!大丈夫かっ!?」
「なんとか…って、なんでタマキまでここに…!」
「俺、心配で…ごめんっ、俺、タマキが死んじゃうかとおもっ…」
「オレはおまえを置いて死んだりしないよ。だから泣くな、タマキ…」
「泣いてないっ…!」
 
ポロポロと真珠のような涙を流して、タマキの肩口に自分の額を押し付ける。まるで泣き顔を隠すように。
タマキは黙って兄の体をぎゅっと力強く抱き締めた。その身体は心なしか、かたかたと震えていて。そんな兄が愛おしくなり、タマキの頬を両手で包んで自分の方に顔を向けさせた。
 
「泣き顔もたまらないな」
「っ、バカ…んぅ、」
 
そしてそっとタマキに唇を寄せる。タマキの舌が唇を割って、歯列をなぞり、上顎を舐め上げた。タマキの口の中に鉄の味が微かに伝わる。
(タマキ、口の中切ったんだ…)
自分と同じ血の味。決して美味とは言えないけれど、タマキのものなら、いい。彼が無事で本当によかった、とタマキの目尻からまた滴が零れた。
 
 
 
(タマキ、手首捻ったからメシ食わせて)
(し、仕方ないなっ…今日だけだぞっ!ほらっ、あっ、あーん)
(あー…)
(…傷、痛まないか?)
(ああ、平気。今度はオレがタマキにオレのキノコ食べさせてや、いてっ)
(やめろバカッ!)
 
 
 
 
 
 
(温泉入ってな、い…)
 

 
 
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