いい旅、夢気分/タマタマ
 
 
「温泉旅行、ですか?」
「ああ、人里離れた場所だが、とてもいい湯だと聞いたんだ」
「やったー!温泉!」
 
日頃の疲れを癒そう、とキヨタカの突然の提案にタマキはきょとんと聞き返した。アラタはカナエの膝から飛び降りて、ぴょんぴょん跳ねながら体全体で喜びを表現する。
一泊二日の小旅行。明朝出発と聞いてメンバーたちは、準備のためかそそくさとミーティングルームを出て行った。
 
「ようやく着いたか…」
「わーっ!いい景色!ねっ!タマキちゃん!」
「そうだな」
「でも随分と山奥まで来たもんだな…」
「こんなところに旅館なんてほんとにあるのかよ」
 
ナオユキが首を回すと、コキッと小気味いい音が鳴る。はしゃぐアラタに笑ってタマキは返事をすると、後ろからずっと運転を交代でしていたカゲミツとヒカルが疲れ切った様子でワゴン車から出てきた。
キヨタカの話によると、旅館まで車では行けないらしく、この山道を歩いて行くしかないらしい。カナエもユウトも同じく、少し疲れ気味に後ろを歩く。
 
「タマキ、はぐれないように手ェ繋ごうか」
「一本道でどうやってはぐれるんだよ…」
「じゃあ荷物持ってやろうか」
「そんな重くないから」
「疲れてないか?我慢するなよ?」
「大丈夫だよ、平気」
 
双子の兄、タマキをしきりに心配する弟のタマキたちの会話を聞いているメンバーたちは、余計にげんなりと疲れていく思いだった。弟のタマキのいき過ぎた愛は、兄のタマキには少しばかり重かったりする。それでも甘受してしまうのは、やはり弟だからなのだろう。
どうにか旅館に到着し、荷物を整理すると、またキヨタカの突発的な提案でキノコ狩りに森に入ることになった。ちょっと時期は外れているが、この周辺では美味しいキノコがあるという。
 
「…おいタマキ、俺にくっついてたら広範囲に探すこともできないだろー?ほら、離れろ」
「いいだろ、キノコなんて…タマキはオレのキノコだけを食べていればい、」
「っ、ばかッ!」
「いてっ」
 
タマキの下ネタ発言に顔を赤くして、彼の頭をひっぱたく。むすっとしながらタマキを睨んで、くるりと踵(きびす)を返した。
 
「もういい、タマキが離れないなら俺が離れる!」
「タマキ…!」
「ついてきたら帰りの車で隣に座らないからなっ!」
「うっ…!」
 
タマキにそう言われ、言葉に詰まってその場に固まる。タマキは構わずキノコがありそうな場所を逍遥(しょうよう)することにした。
するとヒカルとカゲミツ、二人の姿がタマキの目に留まる。どうやら携帯電話の電波が入らないと嘆いているらしい。携帯電話を持って木の周りを回ったりしている。
 
「なにしてるんだ?」
「ああ、少しでも電波が入る場所がないか調べてるんだ」
「へぇ、俺も探してみようかな」
「いいけど…タマキのことほっといていいのか?恨めしそうにこっち見てるけど…」
「その割には近付いては来ないな、珍しい」
「ああ、ちょっと強気について来ないように言ってみたんだ。ついて来たら帰りの車では隣に座らないからなって!」
「そ、それで言うこと聞いたのか…」
「そのやりとりが強気なのか…」
 
二人にはこの兄弟の関係が謎で仕方がなかった。ただ、兄を愛し(すぎ)ている弟くらいにしか思っていなかったが、やはりこの二人は異常なくらい恋人同士そのものにしか見えない。
もしかしたら実は禁断の…と、カゲミツは少し不安になるくらいだ。
 
 
 
 
(続く)
 

 
 
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