次に桜が咲くときは/ユキ→ソウ(年齢操作/五年生設定)
 

次に桜が咲くときは/ユキ→ソウ(年齢操作/五年生設定)


次に桜が咲くときには、私たちは…─────

「ソウコちゃん」
「あら、ユキちゃん」

私たちは友達以上恋人未満のような曖昧な関係で。お互い意識はしているものの、なかなか行動に移せないでいる。
いつからだろう、色恋沙汰に臆病になったのは。きっと忍術学園に入学してからだ。正確に言えば高学年になった頃からである。私たちはくの一で、普通の恋愛なんてできるはずがないと、そのとき悟ったのだ。
あんなに嫌だった房中術の授業を乗り越えて、ますます普通の恋愛ができなくなったと諦めていた。しかし私は気付いた。同級生の女の子を目でいつも追っていることに。

「昨日ね、町でおいしい羊羹買ってきたの。一緒に食べない?」
「いいの!?わーい!」

色気より食い気が勝る彼女のためにお饅頭だったりお団子だったりと、毎回とっておきのエサを用意しておく。それを口実に彼女を部屋に誘うのだ。同室のトモミちゃんとおシゲちゃんには内緒で。(もしかしたら二人は勘がいいから気付いているかも知れないけれど)
女の子が女の子を好きになるなんて反道徳的だ。男子の方だって同じで背徳的である。でも好きになってしまったのだ。今さら引き返すことなどできない。

「部屋においでよ」
「うん!行く行く!」

まんまと引っかかってくれたソウコちゃんと並んで歩く。今なら丁度あの二人もいない(町へ出かけたらしい)。二人きりになれる。そう思うだけで足取りは軽やかになった。
隣からふふ、と笑い声が聞こえて彼女を見ると「機嫌いいんだね」と言われた。当たり前だ。ソウコちゃんと並んで歩けるうえに、自室に戻れば彼女と二人きりの時間が待っているのだから。
そのとき彼女からあ!と、唐突に声が上がる。何事かと目を見張って尋ねると、お茶もらってこなくちゃ!と返ってきた。

「そんなのあとでいいのに」

先に部屋で待ってて、と一言だけ残し食堂の方へと走っていってしまったソウコちゃん。何なら二人で行けばよかったと少し後悔した。二人だけの時間がそれだけ私にとって大切なものなのに。
仕方なく言われた通りに自室に戻ると戸棚にしまってある羊羹を取り出して切り分けた。今日は天気がいいから縁側で食べよう。日光を浴びてほかほかと暖まった床に足をブラブラと投げ出して腰掛ける。早く戻ってこないかな、と思ったと同時におまたせ、と丁度ソウコちゃんが戻ってきた。

「待ちくたびれたわよ」
「どれだけ気が短いの」

さっきはあんなにご機嫌だったのに、と苦笑う彼女の手にあったお茶を羊羹の横に置く。座りなさいよという意味を込めて、羊羹とお茶を跨いだ床をトントンと叩く。彼女は素直にそれに従った。
二人で肩を並べてお茶を啜る。空は快晴、太陽は煌々と照り、風は穏やか。なんて気持ちのいい日なのだろう。さっそく羊羹を頬張っているソウコちゃんの姿に思わず顔が綻(ほころ)ぶ。お茶も飲みなさいよ、と注意を促すも充分な効果は見られなかった。

「こうやって春の陽気を楽しみながらお茶するの最後かもね」
「そうだね、もう卒業間近だもんね」

しみじみと思い返せば、全部が全部楽しかったわけではないが幸せだった。仲間もできたし想い人もできた。充実した毎日だったと言える。その日々も今日でおしまい、かも知れない。彼女と過ごす日々もこれでおしまい、なのだろうか。
卒業しても会いに行くから、なんて口約束など意味がないことくらい知っている。けれど心だけでも寄り添っていられればそれでいい。それでいいはずなのに、貪欲な精神が邪魔をする。一生そばにいたい、もしくは一秒でも長く一緒にいたいと。

「あんたと離れたくないな」
「…私もだよ」

愛おしさ故に気でも狂いそうで。理由や理屈じゃ計れない。でもこのままの関係が私たちには最善なのかも知れない。一度でも深みにはまってしまえばもう後には戻れないから。手に入れたとして、いつかは味わう喪失感に私は怯えているのだ。しかしこのまま彼女に会えなくなるのもいやだ。もし就職したら敵同士にもなりうる。彼女と争うことなど私には到底できっこない。自ら命を絶つか、情に負けて殺されてしまうに違いない。それでも彼女の手によって亡き者となれるのならば本望だ。

「ソウコ、好きよ」
「…わ、私も、私も好き、」
「離れたくない、離れたくない、よ」


次に桜が咲くときには、私たち卒業だね。


(ああ、神様)(どうして私を男にしてくれなかったのですか)

 
 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -