冬が終わる日/くくタカ
 

冬が終わる日/くくタカ


春は嫌いだ。春は出会いの季節でもあり別れの季節でもあるから。出会いがあるなら別れもあるのは必然で。永遠なんてものはこの世界には存在しないから期待するだけ無駄なんだ。
人は生まれていつか死ぬんだし、いつまでも一緒にいられるわけがない。分かりきってることだけれど簡単に割り切れる程おれは大人じゃない。かと言って子供なわけでもないが。
どうせ別れがくるのなら最初から出会わなければいいのに。別れるのが辛いのなら特定の人たちを好きになりたくない。春なんか嫌いだ。

「兵助くんは冬ってイメージ」
「は?」
「飽くまでイメージだよ。別に深い意味はないよ」

突然のおれの台詞に兵助くんはひどく困惑したようだった。話が飛躍して突拍子もないことを言い出すのはおれの悪い癖だ。自分でも治したいと思うが中々治らない。たまに日常生活で困ることがあるから、なるべく早く治したいものだが。
あれ、何の話してたんだっけ。
あ、そうそう。兵助くんには雪が似合う。そう、だから冬のイメージ。でもだからと言って兵助くんが冷たい人というわけではない。兵助くんは真面目で几帳面で、やるときはやる人で厳しさの中にも優しさがある。そんな人だ。尊敬してる。ただ尊敬してるだけ。

「タカ丸は夏ってイメージだよ」
「え、おれ暑がりだよ」
「いや、何て言うか明るい感じ」

兵助くんの、おれが夏というイメージにあまりピンとこない。夏と言えば海、太陽、向日葵、髪が黄色だから夏なのか。
おれ自身は秋が好き。暑くもなくて寒くもなくて過ごしやすいから好きだ。何よりもおれが秋生まれだから秋を贔屓目に見ているのかも知れない。
しかし春と言われなくてよかった。春はおれの嫌いな季節だから。春なんか来なければいいのに、と心底思う。秋が過ぎて冬になって、その次は夏になればいいのにな。

「あ、おれ暑苦しい?」
「そういう意味じゃない」

秋は誰かな。ああ、綾部くんとか似合うかも。それじゃ春は…うん、やめておこう。
一人で悶々と考え込んでいると「おい、聞いてるか?」と、兵助くんに突っ込まれてしまった。「あ、ごめん。何て言った?」と聞き返すと、お前から話振ったくせにと呆れる兵助くんに、またごめんと謝る。おれ謝ってばっかりだ。
名誉挽回に話を方向転換に先ほど思案したことを話してみた。

「秋は綾部か。そんな気がする」
「だよね」

ふむ、と納得した兵助くんにふふ、と笑いかけて反応する。すると当然、残った春は誰かと問われた。春は意図的に決めるのを避けていたから誰かと聞かれても答えられない。
もし当て填めたら、おれがその人のことを遠回しに嫌いだと言っているようなものだ。嫌いな人なんておれにはいないから。だから決めないのである。

「春は決めたくない。おれ、春嫌いだから」
「へえ、春が嫌いなんて珍しいな」

そうかな、でも確かに夏や冬が嫌いな人は結構いるけれど春が好きじゃない人はあまり見たことがない気がする。寒がりの人は夏が恋しくて、暑がりの人は冬が恋しいのだろうか。
兵助くんはどの季節が好きなのかな。まさか春が好きだったりして。だとしたら先ほどのおれの春が嫌い発言は失礼だったかも知れない。今更ながらあの台詞はまずかったかと後悔してみても遅い。口に出してしまった言葉はもう戻ってこないのだ。

「兵助くんはどの季節が好きなの?」
「俺は別にそういうのないな」

夏は暑いから嫌だし冬は寒いから嫌だし。なるほど。彼らしいと言えば彼らしい。兵助くんはどの季節にも関心がなさそうだ。
でも裏を返せば過ごしやすい春と秋が好きなんじゃないだろうか。それなら秋が好きなおれと同じだ。春には同意できないけど。
春が嫌いな人っておれくらいなのだろうか。春が嫌いなおれは端から見れば珍しい部類なのだろうか。秋が好きならば春も当然好きなのか。
まあ同じ意見の人間がいたとしてもどうでもいいけど。おれには関係ないことだから。

「早く夏になればいいのに」
「どうしてそんなに春が嫌いなんだ?」
「春なのに寂しいから」

出会いと別れの季節でしょ、寂しいじゃん。本心を言えばおれは別れが嫌いだ。別れが夏の季節だったとしたら夏が嫌いになっていたのだろう。だから春自体は嫌いじゃないんだ。別れが、怖いんだ。
離れ離れになるくらいなら最初から仲間なんて友達なんて恋人なんていらない。家族だってそうだ。どうせおれを残して親は先に逝ってしまう。おれが我が儘なだけなんだろうか。
どうしていつかは離れると分かっていても人は人と付き合うのか。所詮は自分以外に寄り添っていられる存在なんてありもしないのだから。

「俺はまだ卒業しないよ」
「でもいつかは卒業するじゃん」
「必ずお前の元に戻ってくると言っても?」

おれはこの人と知り合ってしまった。関わりを持ってしまった今、兵助くんとお別れなんて考えたくない。
でももし彼が言っていることが本当で、卒業したあとでも彼がおれと関わってくれると言うなら、おれはどうする?寂しい思いもするけれど彼と繋がりがあるのなら、それでもいいと思える自分がいる。

「家、遠いよ」
「卒業したら一緒に住もう」

関わるならもっと深く関わりたい。同じ時間をずっと共有していたいから。

「死ぬときは一緒がいい」
「うん、分かってる」

先に逝くなんて許さない。おれも先には死なないよ。

「寝るときは手、繋いでほしい」
「寝るときだけじゃなく、風呂のときにも飯のときにもずっと手を繋いでいよう」

嬉しいけど、それじゃ髪や体を洗うときもお茶碗とお箸を持つときも不便だよ。でもずっと手を繋いでいたいね。

「必ず戻ってきて」
「そのつもり」

春は嫌いだ。春は出会いの季節でもあり別れの季節でもあるから。出会いがあるなら別れもあるのは必然で。永遠なんてものはこの世界には存在しないから期待するだけ無駄なんだ。

貴方との別れが一生来ないのならば嫌いな春も少しだけ好きになれそう。貴方が永遠を共にしてくれるなら寂しい春ももう怖くなんてない。
春が貴方だけを連れていってしまわないように、ずっと手を繋いでいよう。



(冬が終わる日)

 
 
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