素直になれない僕らは、とりあえず手を繋ぐことから始めました/久→(←)さこ(←ろじ)
 

素直になれない僕らは、とりあえず手を繋ぐことから始めました/久→(←)さこ(←ろじ)


愛してる、なんてそんなかっこいいこと、俺には言えない。ただ好きなことは確か。友達以上のこの気持ちを切り捨てられるほど俺は人間できてはいない。だからと言って伝えることすらできない俺は臆病者。
誰かに取られるのはもっといやだけれど、それよりも怖いのは拒絶で。吐き出してしまえば一瞬で壊れてしまいそうだから。
まいったな。俺はどうすればいいんだろう。

「左近」
「なんだよ」
「団子食いたい」
「知るか」

君の名前ひとつで、君の声ひとつで過剰に反応してしまう。かっこわるいな、俺。
(三郎次、邪魔だ。どっか行け。)
誰かに相談するのも気が引けるし、自分の心の内に留めておくのもそろそろ辛い。まるでザクロが張り裂けて赤い実をあらわにするようなこの気持ちに、どんな名前を付けたらいいのか。これが恋だと知ってだいぶ経つから本当は名前なんて今さら付けなくたっていいのだけれど。

「久作!三人で団子食いに行こうぜ!」
「えー、あー…うん」

俺の思考は三郎次の言葉で一時中断されて生返事を返した。三人て三郎次と左近と俺で行くのだろうか。左近はあまり乗り気じゃないみたいだが、どうせ三郎次は無理矢理にでも左近を連れて行く気だろう。
願ってもない誘いだけれども恋のライバルは少ない方に越したことはない。きっと三郎次も左近のことが好きなんだろうな。

「ちょっ、待て。三人て誰を含めたんだよ」
「もちろん左近だけど?」

なんなんだよおまえは!と喚(わめ)く左近もかわいい。左近はどんな姿だってかわいいんだ。
恋は盲目っていう言葉があるけれど、まったくその通りだと俺は思う。それでなくても左近は黙っていれば整った顔立ちをしているし性格には少しばかり難はあるが本当はとても優しい人間だ。だから左近を狙う奴は少なくはない。保健委員と三郎次はとくに左近を気に入っているし、要注意である。

「ふざけんなおまえ!」
「いいじゃんか。行こうぜー?」

座っているままの左近の背中に負ぶさって体を前後に揺する三郎次。「重い!暑い!鬱陶しい!離れろばか!」と騒ぐ左近にもお構いなしで「左近ちゃ〜ん」とベタベタ引っ付く三郎次をひっぱたいてやりたくなった。どす黒い感情が胸の中をぐるぐると這いずり回る感覚に吐き気がする。自分が自分じゃない気がして厭世(えんせい)感に苛(さいな)まれた。

「…、久作は?行くのか?」
「えっ、俺?俺は、」
「行かない、のか…?」

左近から飛び出た台詞に少しだけ驚愕した。それと同時にあの左近が俺を気にかけてくれたことが素直に嬉しかった。
でも、やめてくれ。いくらなんでもどこかの先輩方のようにそこまで自惚れられないけれど、少し、ほんの少しだけ、期待してしまうから。

「んー…左近が行くなら、行く」
「っ!」

それでもやっぱり俺は素直になりきれなくて少し考えるふりをしてみた。すると左近の顔が瞬時に赤く染まる。
なんだよその反応。どうしよう、こいつメチャクチャかわいい。こっちまで照れてしまいそうなほど真っ赤な顔でそっぼを向く姿に心拍数が上がった。
自然と繋がれた左手に熱が集まる。

「…行こ」
「えっ!左近、て、手っ…」
「っ…いや、なのか?」

いやなわけないじゃないか!むしろすごく嬉しい!なんてかわいいことをしてくれるんだ。
繋がった手からどきどきと早まる脈が左近に伝わってしまわないか心配だけれど、それよりもこうして手を繋げることが夢みたいで、どこかソワソワしてしまう。
夏という季節がらどんどん俺たちの手のひらは熱が上がってきた。どんなに汗でべたついてきても、ぬめってきたとしても手が離れることは決してなかった。



(あーっ!おまえらなに手ェ繋いでんだよっ!)
(うるさいな!いいだろ別に!)
(じゃあ俺も繋ぐ!左近と手ェ繋ぐ!)
(さっ三郎次はだめなんだよ!)
(はっ?なんでだよ!久作だけずるいじゃねぇか!)
(…っお、おまえは手ェ汚いからっ)
(え!そんな理由!?ていうか汚くねぇし!)
(ばか!空気読めよ!ばか!しね!)
(えー…ひどいよ左近ちゃん…)
(うるさいな!ついてくんなよ!)
(おっ俺が誘ったのに…っ!久作!左近の手を放せ!)
(…久作、走ろうぜ)
(あーっ!待てよー!)

 
 
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