逢い引きするにも理由が必要なんです/くくタカ(毛玉ちゃんへ!)
 

逢い引きするにも理由が必要なんです/くくタカ


日差しが強くじりじりと熱くなった地面を踏んで委員会の年上の後輩の姿を探す。今日も、暑いな。そんなことを思いながら久々知兵助は大したことのない用事でその目的の人物を探していた。
どうして大した用事があるわけでもないのに、彼が年上の後輩を探しているのか。その理由は彼とその人が恋仲にあるからだった。
生憎、恋人の斉藤タカ丸は長屋にはおらず、だからこうして学園内の敷地を歩いて探し回ってはいるのだが、なかなかどうして見つからない。それが兵助を少し焦らせて不安にさせていた。

「タカ丸、知らないか」
「…知りません」

角を曲がると、ざくざくと一心不乱に地面に穴を作る綾部喜八郎に出会(でくわ)した。タカ丸に心当たりはないかと聞くと穴を掘る手を休めて彼の瞳が穴からようやく兵助に向けられる。しかし訪ねてはみたものの依然、タカ丸の消息は掴めなかった。
それから喜八郎はまた地面に視線を戻して円匙(えんし)で穴を深く掘り進めていった。
(どこに行ったんだ、あいつ)

「ありがとう」
「どういたしまして」

喜八郎との短い会話を終えて今度はまだ探していない一年は組の生徒が集まる場所へと足を運んだ。滅多に行くことのない広場に、まさかとは思うけれどそのまま足は進んで行った。
ざわざわと騒がしいそこには乱太郎、きり丸、しんべヱと木陰に寝ころぶタカ丸の姿があった。
(…やっと見つけた)
兵助は少し早歩きで四人の元に向かって行った。

「タカ丸」
「ん、ぅ?あ、久々知くん」
「探したぞ」

ごしごしと目を擦り、まだ寝ぼけ眼(まなこ)のタカ丸に対して兵助はやっと安堵の表情を浮かべた。「え〜、ん〜ごめん」とタカ丸は上半身だけを起こし、欠伸を一つ零して目尻に溜まった生理的な涙を拭う。
必然的な身長差に兵助の胸がどきりと高鳴る。それを隠すように低い位置にあるタカ丸の頭を頭巾の上から撫で回した。

「今日届いた火薬の整理、明日になったから」
「えー、そうなの。分かったー」

タカ丸はまだ眠そうに伸びをして兵助に相槌(あいづち)を打つ。用件を言い終えたのに依然、立ち去ろうとしない兵助を不思議に思ったのか頭にクエスチョンマークを浮かべてタカ丸は彼を見つめた。
「いっいや、あの、その、」と吃(ども)る兵助にタカ丸は笑顔で応えた。

「新しい火薬が入ったんでしょ。明日のために少し整理しておこうよ」
「え、」
「いいから行こ」

タカ丸に手を引かれて二人の足はずんずん火薬庫に進んでいく。兵助はタカ丸と繋がっている手にどんどん熱が高まっていくのを感じながら一人で勝手に気恥ずかしくなる。兵助の返事も聞かずにタカ丸は彼に背を向けたまま喋り出した。

「久々知くん、わざわざおれに会いにきてくれたんでしょ?」
「えっ、あ…えっと、」
「おれも、会いたかった、よ」

ふと振り返ったタカ丸は頬を朱に染めてはにかんでいた。その表情に嬉しくなって言葉よりも早く兵助の腕がタカ丸の背に絡まる。「わっ、く、久々知くん…!」というタカ丸の声にも構わず腕を緩めることはなかった。むしろ力はますますつよまっていった。
タカ丸の耳元に唇を寄せて「会いたかった」と囁くとタカ丸の脈が速まるのが体越しに伝わる。
(舞い上がっていたのは、俺だけじゃなかったんだな)

「え、ちょっ、んっ…!」
「…、」
「ふっ、む…」
「タカ丸、」
「久々知くん、ここ外、だよ、」
「構うもんか」

(俺はタカ丸が好きで愛していて)(タカ丸も俺を愛してくれている)(くだらない用事でも俺の意図は伝わっていたことが)(素直に嬉しかった)

 
 
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