apricot kiss/綾タカ
 

apricot kiss/綾タカ


友達の延長と言うべきか。最初はお互いを意識したりはしていなかったような気もする。ただ一番仲のいい友達で。恋仲に発展するとは思わなかった。いや、少なくともわたしは恋仲に発展してほしいと望んでいたと思う。
年上なのに可愛いひとだな、とか、抱き締めたらどんな反応をするのかな、とか、口付けしたい、と思ったこともある。彼を恋愛対象として見ていた自分に気付いたのはつい最近。と言ってもひと月くらい前のことだけれど。

「タカ丸さん、なに食べているんですか」
「飴だよ。あんずの味がするんだ」

左頬を膨らませて綻ぶ顔を見ると、よほど珍しくて美味しいものなのだろう。タカ丸さんの口のなかで飴と歯がぶつかってからからと小気味いい音が聞こえてくる。
わたしも食べてみたい。タカ丸と同じ味覚を共有したい。

「わたしもソレ、食べたいです」
「えっ、えーっと、ごめんね。これ一個しかないんだ。兵助くんからもらったんだけど…」

どうしよう、もらってこようか?とタカ丸さんの瞳が揺らぐ。別に彼を困らせたいわけではないけれど、悩ましいその表情さえも愛おしくてついつい意地悪をしてしまいたくなる。そして毎回わたしをいらいらさせる“兵助くん”が彼の口から零れたことに加虐心が煽られた。
わたしも立花仙蔵先輩のように立派な作法委員の長になれそうだ。

「ソレが、いいんです」
「そんなこと言ったって…」
「大丈夫ですよ。ソレ、もらいますから」
「えっ、んむ!」

タカ丸さんの唇を通じて舌で飴玉を探す。さほど骨は折れずにソレを探り当てることができた。舌を使ってタカ丸さんの口の中の飴玉を自分の口の中に移動させる。口の中いっぱいに広がる甘酸っぱい味に、なるほど確かにあんずだと納得した。
塞いだ唇から、んーっんーっ!と唸(うな)るような声が聞こえ肩をどんどんと叩かれて初めてタカ丸さんが苦しがっているのを理解する。すみませんと一言だけ謝ってタカ丸さんの唇を解放した。

「ごちそうさまです」
「あ、飴っ…」

しょんぼりと眉を八の字に下げて飴を惜しむ彼に笑ってしまいそうになる。こんなものならいつでもわたしが買ってきてあげるのに、飴玉ひとつで落ち込めるタカ丸さんに敬服してしまいそうになった。それほど彼は純真なのだろう。
口内でどんどん小さくなっていく飴をがりっと噛み砕くと、あーっ!とタカ丸さんから声が上がる。正直、反応がいちいちおもしろい。

「すみませんでしたね。お詫びに今度たくさん飴をお返しします」
「う、ん…それは別にいいんだけど、」
「けど?」
「いきなり口付けで飴をとるなんて、ずる、い」

頬を朱に染めてそっぽを向くその横顔にいたずら心が擽られる。しかしさきほど意地の悪いことをしてしまったばかりなのでそこは自重することにした。
それでもやはり愛おしさが勝って彼を腕の中に閉じ込めたけれど。


(可愛い可愛いわたしの恋人)(誰にも譲る気はありません)

 
 
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