低俗に溺れる/鉢タカ
 

低俗に溺れる/鉢タカ


壊れそうなくらい、舌を絡めてくる。顎が、つりそうだ。
でもそれが心地いい。胸がいっぱいになる。呼吸もままならない。でも、それに安心する。
もっと、もっとおれを求めて。

「ふっ…ん、む」
「っ、は」

もっとひどくしていいのに。やたらと優しいアナタの唇に翻弄されてしまう。勘違い、してしまう。
おれには恋人がいる。それは三郎くんじゃない人で。でも三郎くんはおれに恋人がいてもいいと言った。だからその優しさに甘えている自分がいる。
あの人を裏切っているのに、どうして拒めないんだろう。浮気なんてしたくないって思っていたのに。

「タカ丸さん、なに考えてるの」

あいつのこと?口角を上げた意地悪な笑い方に言葉がつまる。こんなの、そうですと言っているようなものだ。ばかだおれ。
なにもかも見透かされているようで二の句が出てこない。なるべく彼を傷付ける言い方は避けたいのに出たのはごめんの三文字だった。

「ごめんね、三郎く、んむっ」

まるで黙れと言うように塞がれた唇。どこか余裕がないようで、それでもやはり三郎くんの唇は優しかった。
そんなに優しいと溺れてしまうよ。いや、もう溺れているんだ。

「ふっ、は」
「頼むから謝るな」

眉間に皺を寄せて苦笑する彼におれはなんてひどいことを言ってしまったんだと後悔した。謝られたら惨めになると、いつか言っていた。
それでも頭の中は謝罪の念でいっぱいで。どうしたら本当の気持ちを伝えられるのか模索する。けれど頭のよくないおれには検討もつかないことだった。

「、三郎くん」
「…あいつなんて、やめとけよ」

あんたを泣かせることしかできないあいつなんてもうやめとけ、と彼は囁いておれを抱き寄せた。三郎くんの心臓は早鐘を打ったように早くて、それが精一杯の告白なんだと分かる。
嬉しいのに素直に頷けない自分が恨めしい。ほんとに、三郎くんにしておけばよかったのにな。

「おれは、三郎くんがすき、だよ」
「私は愛してる」
「…そ、か」

一体どこから間違えたのだろう。どうしたらやり直せるだろう。愛ってよく分からない。


(低俗に溺れた)

 
 
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