雨がやむまで/数さも
 

雨がやむまで/数さも


(すき、あいしてる)
そんな言葉じゃ足りないくらいきみがすき。きみのことを考えるだけで切なくて胸が張り裂けそう。会いたい、触れたい、抱き締めたい。
甘い匂いが香るきみの髪、少し温度の高いきみの指先、触り心地のいいきみの体。きみのぜんぶが愛おしい。

「雨、やまないね」
「そりゃ梅雨だからな」

雨はきらい。きみのような明るい太陽を隠してしまうから。それがもう三日も続いている。早くきみみたいなお日様がぼくたちを照らしてくれればいいのに。そしたらみんな元気になれるんだ。
肌寒い湿気を含んだ風が頬を撫でる。風は冷たいのにじとじととまとわりつく髪の毛が鬱陶しい。

「会いたい、な」
「左門?会いに行けばいいじゃん」

行きたくてもこの雨では部屋の外に出るのが億劫だし、左門が部屋にいるかも分からないのに、無謀に探し回ってもかえってややこしくなる。でも、会いたい。今すぐにこの腕に閉じ込めたい。
この雨のせいだ。雨がぼくを、せき止める。雨が、ぼくの足を、体を、想いを重たい枷で縛り付けるんだ。だから雨はきらいなんだ。

「雨、いやだな」
「左門に会えば晴れるんじゃない」
「まさか」

でもあながち冗談ではないのかもしれない。左門は雨を晴れに変える力を持っていそうだ。なにせあんなに太陽みたいな人間なのだから。
試しに会いに、行ってみようかな。重たい雨の鎖を無理矢理にでも引きちぎって太陽を見に行こうか。
ちょっと行ってくる、と一言だけ残してぼくは部屋を飛び出した。

「左門!」
「数馬…、待っていた」

少しだけ丸くなった目で左門はぼくを迎え入れてくれた。よかった、いた。
会いたくて、触れたくて、抱き締めたくて仕方がなかったきみは、ぼくを待っていてくれたなんて嬉しい言葉までくれる。感極まってすぐさま左門を両方の腕で胸に押し込めた。会いたかった、と耳元で囁けばぴくりと反応する体が面白くて、可愛くて、愛しくて。おでこ、まぶた、目尻、頬、最後に唇に口付けを落とす。

「左門、」
「く、くすぐったい」

すき、だいすき、あいしてる。やっぱり足りないけれど、ぼくのボキャブラリーはそんなに多くないので、それら以外では言い表せなかった。それでも満足したように胸に顔を擦り寄せてくる左門が愛しくて顔中に口付けの雨を降らせる。
それと同時に部屋の外では雨足が弱くなって、ついには晴れ間まで見せた大空に左門の力だと確信できた。

「左門は晴れ男だね」
「え、そうなのか」
「ぼくは雨男」

さっきまで不快で耳障りだった雨にありがとうと感謝したい。こうやって左門と触れ合えたのも雨のおかげだったのかもしれないから。
それでもやはり天気は晴れの方がいいな、と思う。きみみたいに笑顔いっばいの太陽さえ愛おしいから。


(雨がやむまでこうしていよう)(やんだら手を繋いで、口付けをして、)(ああ、なんだかもうどうでもいいや、考えるのはよそう)

 
 
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