凡庸のぼくと意地っ張りなきみ/しろさこ
 

凡庸のぼくと意地っ張りなきみ/しろさこ



「バカかおまえ」
「えへへ」

バレーボールに塹壕掘りに次屋三之助捜索、一日にこれだけやれば身も衣もボロボロになるはずだ。体育委員会というものは加減を知らない。体育委員会というよりは委員長だけが加減を知らないと言った方が正しい。
二年生の四郎兵衛には上級生たちについていくにはまだ無理がある。けれど一生懸命に本気で活動している彼には脱帽する。
だが毎日のように擦り傷や青痣を作って帰ってくるのは考えものだ。

「えへへじゃねーよ。少しは手ェ抜け」
「でも、楽しいよ」

楽しいという言葉に左近には理解も同意もできなかった。あの地獄の会計委員会の次に地獄の委員会に楽しさなんて少しも感じられない。楽しんでいるのは委員長ただ一人だけではないのだろうか。それを楽しいと言いのける彼が末恐ろしい。自分たちが最上級生になるころには今の委員長たちのように恐れられたり哀れまれたりするのだろうか。
(おれは保健委員長なんかには絶対ならないけれど)

「毎回毎回だれが手当してやってると思ってんだよっ」
「いたっ!痛いよ左近」
「当たり前だろ、痛くしたんだから」
「え〜、なんでぇ?」

左近はぶつけどころのないイライラを四郎兵衛の傷口にわざと消毒液を強く押しつけて解消する。痛がる素振りは見せたが四郎兵衛は終始笑顔のままで。それが左近のイライラを逆撫でしていることに気付いていないようだ。
わりと深い切り傷に包帯を巻いて青痣に湿布を貼ってやる。もちろん包帯はこれでもか、という程きつく巻いてやった。き、きついよ〜と嘆く四郎兵衛を当然のように無視する左近。

「これ以上きず作ったらこれから手当すんのやめるからな」
「ぇえ!そんなぁ!左近に手当してもらうの楽しみだったのに〜!」
「たっ、楽しみとかおまえほんとバカじゃねぇの!」

一瞬、左近は彼がマゾなのかと疑った。ひとつ息を吐いて心を落ち着ける。バカだバカだとは思っていたが、ここまでバカだとは思っていなかった。バカというよりは頭がおかしい、ちょっと狂ってるのか。
こいつのペースに流された気がして余計に左近はイライラした。

「だってぼく左近のこと大好きなんだもん」
「ああ、そうかよ」

そういわれて四郎兵衛に背を向けて適当にあしらうも頭巾のない頭を見ると耳が赤い。いくらは組の四郎兵衛ともいえど左近の精一杯の照れ隠しはすぐに理解できた。救急箱を片付けている最中も耳が赤いままのところを見るとよほど照れているようだ。

「ふふ」
「、なに笑ってんだよ」
「照れてる左近かわいい」
「ばっ、おまえふざけんな!ぜんっぜん嬉しくねぇよ!」

すっかり四郎兵衛のペースに乗せられた左近の顔はいろんな意味で朱に染まっている。もう出てけ!とがなる左近にますます四郎兵衛の顔が綻(ほころ)ぶ。
だいたい同じくらいの上背なのに今日の四郎兵衛はやけに大きく見えるのは目の錯覚だ!と心の中で呟いて四郎兵衛を保健室から追い出そうとする左近。しかし意外にも力が強い四郎兵衛は押してもあまり効果は得られなかった。さすが体育委員と言うべきか。

「左近、今日お当番じゃないでしょ。一緒に帰ろうよ」
「!」

きょ、今日だけだからな!と自然に繋がれた手がふわふわとした空気を生み出す。いつもの自分じゃないみたいだ、四郎兵衛のせいだ、と頭の中で考えながら二人、肩を並べて長屋まで歩く。でもそんな自分も案外きらいじゃないことにはまだ気付かずに左近は四郎兵衛の暖かい手を強く握り返した。


(おまえといると調子が狂うんだけど)(優しい左近も大好きだよ)(あ、そ)

 
 
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