振り返らないと決めたから/数さも←藤(生温いR15指定)
 

振り返らないと決めたから/数さも←藤(生温いR15指定)


これより先は性的な描写が含まれております。
大変申し訳ありませんが、規定年齢に満たない方はご観覧をお控えください。










ひとを好きになるってこんなに辛いことなのかな。
きみを愛したおれが愚かだったのかな。
分からない。分からないよ。
この世界が狂っているのか、おれが狂っているのか。はたまた両方が狂っているのかもしれない。この際どちらでもいいけれど。そんな簡単には片付けられないことでもあるんだと知った。

「う、く…かず、まぁ…んああッ」
「左門…可愛いよ、っ左門」
「んん、やァ…ひっ、ァあ!」

知らなかったんだ。きみとアイツがそういう関係だったなんて、知らなかったんだ。だから余計に胸がぎりりと痛んだ。胸が苦しくて、喉の奥がつんつんして、下唇を思いっきり噛みしめた。
偶然にも目に入った光景に途轍(とてつ)もない衝撃が走って思考回路がすべて遮断するほどで。目に余る絶望を見なかったことにしてひたすら走った。
でもいくら走っても走っても先ほどの事実は消去できなくて、忘れようとすればするほどあの情景が目にも頭にも焼き付いて離れない。悔しくて辛くて苦しくて頭がおかしくなりそうだ。
けがれも不純も知らないはずの左門がまさか、とも考えた。ほんとは薄々だけれど気付いてはいたんだ。数馬と左門の関係に。でも知りたくなくて、認めたくなくてずっと目を逸らしていた。諦めたくなくて、諦めきれなくて。

「はあっはあっ、はっ…」

ちくしょう、と一つ零した言葉にどれだけの想いが詰まっていたことか。自分でも計り知れない。あんな姿の左門を見てもやっぱり好きだという気持ちのが勝っていた。未練がましい自分に罵声を浴びせて唾棄(だき)してやりたい。
目と口をめいっぱい食いしばって浮かび上がりそうな涙を必死に抑える。とどまることのできなかった水滴が一筋のあとをたどって地面に染みを作った。

「藤内」

いま一番会いたくないアイツが姿を現した。目尻に溜まった涙を乱暴に袖で拭ってなんだよ、と応答する。醜い嫉妬も僅かな憎しみもこの胸の痛みも悟られまいと必死に平静を装った。しかし意外と感のいいやつだからきっとおれの不安定な心なんて見透かされている気がする。案の定「さっき泣きそうな顔してたから」と、存在まで気付かれていたらしい。

「、ごめんね」
「なんの謝罪だよ」
「分かってるでしょ」
「知らない」
「でも、譲る気はないから」

心臓を抉(えぐ)られた気分になる。分かっていてわざとやっているようにしか思えない。余計におれが惨めになるだけじゃないか。やめてほしい、やめてくれ。
でもその宣戦布告でようやく希望が見えてきた。受けて立とうではないか。なにをしてでも数馬から左門を奪ってやる。そう心に誓った初夏の日。


(もう過去は見ない)(いつかアイツから左門を奪ってやる)(振り返らないと決めたから)

 
 
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