ご機嫌斜めな眠り姫/くくタカ
 
 
「久々知くんのアホ!」
「たっ、タカ丸さん…!」
「もう久々知くんなんて知らない!」
「っ、これはっ、誤解だ誤解!」
「浮気してやるんだから!」
「んなっ…!?」
 
そんな捨て台詞を吐いてタカ丸は走り去っていく。兵助はタカ丸の残した「浮気」という言葉にひどく狼狽(ろうばい)し、一抹の不安を覚えた。
元を辿ればそれは些細なことが発端で。まさかタカ丸が、あのタカ丸が怒るとは兵助も思ってもみなかった。それに未だに悪いのは自分じゃないような、という気さえしている。
しかしどう考えたってこんなもの、恋人が持っていたら引く。というか憤るのも無理はないのかも知れない。自分だったら、やはり不愉快にはなるな、と兵助は自責の念に駆られた。
 
「ったく、三郎のヤロー…!よりによってこんな春画本を残していきやがって…!」
 
そう、原因は兵助の手の中にある春画本だった。三郎曰わく『これ、タカ丸さんに似た女が載ってるんだよ。結構よかったぞ』とのことらしい。兵助だって三郎だって健全な14歳男子だ。そういったことに興味がまったくないわけはない。タカ丸だとしても然り、である。
しかし兵助とタカ丸は恋人同士。手も繋いだし、口付けや、ときには行為にも及んだ。それなりに二人の関係は進んでいる。
 
「くそっ…!タカ丸さん、どこ行ったんだっ…」
 
ただ、兵助は不器用で天然な節があるから、タカ丸に愛情表現が下手で、うまく伝えられないという難点があった。それが今回の喧嘩の要因の一つになったのかも知れない。
(浮気なんて本気じゃないよな…?)
三郎の言動にタカ丸さんの先程の行動に、不安と焦りが混じって心臓が早鐘を打つ。実習のときでさえこんなに手に汗握ることなんて滅多にないのに、と逸る鼓動と滲む汗にも構わず走った。
 
「…火薬庫」
 
走って走って、気が付くと兵助の足はふと火薬庫の前で止まっていた。鍵がかかっていないところを見ると、もしかしたら彼がいるかも知れない。淡い期待、いや直感的にそう思って、中に入る。
恐る恐る中を覗くと、やはり兵助の予感は的中した。薄暗いその中でも彼の金色はよく映える。気配を殺してそっと近付き、彼の様子を伺うと、彼は膝を抱えてすぅすぅと眠っていた。なにも掛けずに寒くないのだろうか。
奥から毛布を引っ張り出してふわっと掛けてやると、彼が少し幸せそうに笑った気がした。
 
 
 
(まず謝って誤解を解いて…どう言えばいいのか分からない…)
(“愛してる”か?いや、重いだろ…)
(“好きだ!”か?今さら…?)
(“結婚しよう!”は、おかしいよな…)
 
 
  
 
お題:モノクロメルヘン
 
 

 
 
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