プライベートはどこ/仙さも
 

「神崎」
「わっ!立花、先輩…」
「また会ったな」

この人は神出鬼没だ。そう、この人とは六年い組の立花仙蔵先輩のことである。
毎日のように出会(でくわ)すのは、ただの偶然なのだろうか。いや、偶然ではないはずだ。それは僕がよく迷子になるのにも拘(かか)わらず、必ずといっていいほど出会ってしまう。まるで僕の行動を読んでいるかのように。

「僕、委員会が…」
「会計室はそっちじゃない。ほら、連れて行ってやるから」

差し出されたこの右手を見るのは、これで何度目だろう。そういえば先ほど食堂に向かうときにも同じような光景を見た気がする。
今日だけではない。昨日も一昨日も、そしてその前も見た手である。風呂に行くときも、演習場に行くときも、厠に行くときでさえ、この手は差し伸べられた。

「あの、」
「急がないと文次郎に叱られるぞ」
「あ、そうだった!」

なんだか腑に落ちないが、このままだとまた迷子になって委員会に遅れてしまう。潮江先輩のことだから遅刻なんてしたら「弛(たる)んでいる」と、怒鳴り算盤を持たされてランニングする羽目になるに違いない。お言葉に甘えてしなやかで綺麗な、けれども僕より大きなしっかりとした手を握った。
出会すことに別段これといった支障はないのだ。むしろ、迷子になってしまうところを止めてもらって、とても助かってはいる。しかし問題なのは四六時中監視されているみたいで、なんだか落ち着かないのだ。きっとこの先輩のことだから委員会が終わったあとも、僕に手を差し伸べ、一緒に風呂に入ろうと誘うに違いない。

「今日は私も会計委員会に参加するぞ」
「ぇえっ!?」
「私がいたら不都合なことでもあるのか」
「いえ、そういうわけじゃ…」

やっぱりこの人は僕を監視しているんだ。今や同室の作兵衛や三之助よりも、立花先輩と共に過ごすことの方が多くなってしまったような気もする。
作兵衛も三之助も少し過保護なところがあるが、立花先輩はそれ以上に過保護だ。僕を見つけるという特技はもはや他の同級生を上回っている。少し怖いくらいだ。

「今日は私の部屋へ来い」
「えっ!今日も!?」
「今晩は冷える。一緒に寝るぞ」
「またですか!?」

そうやってまた、ひとつふたつと消える僕だけの時間。別にいやというわけではないのだが、気が付いたらいつも傍にいるこの人を、なんだか気にしてしまう。
果たして僕が解放されるときはくるのだろうか。




(そういえば、今朝の朝餉の魚の食べ方はまるでなっていなかったな)
(えっ…!見ていたんですか!?)
(もちろんだ。あとできちんとした食べ方を、手取り足取り教えてやろう)
(手取り足取りって、足まで使うんですか…?)
(なんなら私が食べさせてやるぞ)
(えっ…、ていうか立花先輩は僕のこと、どこまで知ってるんですか)
(隅から隅まで知り尽くしているつもりだが?)
(…)

 
 
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