離れていた分だけ君不足/いささこ
 
 
十日間の実習を終えて帰ってきた彼は、身も装束もボロボロだった。
 
「左近、ただいま」
「ぜ、善法寺先輩っ…」
 
どうしたんですか、その格好、なんて愚問だ。だって彼は実習に行っていたのだから。当然、怪我だってするし、装束だって破れたり汚れたりするに決まっている。
それに彼は忍術学園一不運な男だ。毎日のように怪我をしたり装束を破いたりしている。決して珍しいことではない。
けれどもやはり心配するのは当たり前なことで。左近は今にも泣きそうな顔をして狼狽えた。
 
「もしかして左近、私の出迎え?ずっと待っててくれたの?」
「そっ、んなことより早く手当て…!」
「こんなところで待ってて寒かっただろう?」
 
狼狽する左近とは反対に、私は幸せ者だなぁ、と伊作は緩んだ笑顔を見せる。脳天気に笑ってる場合ですか!と、ツッコみたくなるのを抑えて、左近は伊作の手を引っ張って保健室に連れて行った。
伊作の忍装束を脱がせると、やはり上半身だけでも傷だらけで、左近は手際よく消毒したり、包帯を巻いたり、湿布を貼ったりしていく。その顔は少し渋そうな面持ちだった。二人とも無言のままで少し居心地が悪い。
 
「…これで終わりです」
「ありがとう、左近。手当て、うまくなったね」
「そんな…」
 
伊作に褒められても素直に喜べないのは、彼が怪我をしているせいだ。しかし見た目の割に軽傷で、大事にいたらなくて済んだのは不幸中の幸いだろう。
けれども心配しないわけがない。仮にも恋人なのだから。
と、突然ふわりと温もりが左近を包んだ。伊作の匂いと、それから土埃の匂いが鼻孔を刺激し、安心する。彼は、生きているのだ、と。
 
「まだ左近からの“お帰り”って聞いてないんだけど」
「あ、お、お帰りなさい…」
「うん、ただいま、左近」
「さっきも聞きました…ん、」
 
減らず口だ、と自分でも分かっていた。だが左近の性格上、そんなに簡単に素直になんてなれないことくらい伊作も知っている。
そんな減らない口には、という意味を籠めて伊作から口付けが一つ落とされた。ただ触れるだけの口付けは唇だけに止まらずに、おでこ、瞼、頬、そして最後にまた唇と、角度を変えて何度も何度も口付ける。
 
「ああ、左近の味、久々」
「ちょっ、しつこい、です…」
「だって十日間も会えなかったんだ。もう左近不足で限界」
「っ、」
 
瞬時にカァッと赤く染まった左近の耳にも口付けを落として、また何度も彼に口付けの雨を降らせた。
 
 
 
(本当は片時だって離れたくない)
(でも、離れたら離れた分だけの愛を照れ屋な君に)
 

 
 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -