一緒に帰る。手をつなぐ。
頭を撫でる。抱きしめる。
それでも、俺と彼女は付き合ってはいなかった。
「蔵ノ介?」
下から顔を覗き込まれて、ハッとする。いつの間にか物思いにふけっていた。訝しげな彼女に慌てて笑顔を見せる。
彼女は、一瞬不思議そうな顔をしたが、道の先に野良猫を見つけて、何事もなかったかのように笑顔で追いかけていった。
その手を引き寄せて、行くな、と言えればどんなにいいか。
いや、言うことはできる。
しかし彼女は何も感じないだろう。
――幼馴染みとして、あまりに存在が近すぎたから。
幼い頃からの付き合いの中で、俺は彼女を恋愛対象と、彼女は俺を家族同然の対象と見るようになっていった。
「猫はやっぱ可愛ええなぁ。な、蔵」
ひとしきり猫を撫で、そう言って立ち上がった彼女に歩み寄る。
笑って「お前の方が可愛ええよ」と彼女の頭を撫でてやった。
さりげないアプローチは「何それ」と笑って一蹴された。
「蔵、帰ろ」
夕陽に包まれた彼女が、眩しかった。
二人で並んで帰る。
二人の間の距離は半歩。
手をつなぐと、その空間は簡単に埋まった。けれども心の距離だけは、ずっと半歩のまま。
埋めるに埋められない、もどかしく、胸の焦げ付くような距離。
これが、俺が歩み寄れる最高の近さ。
だから、君からもう半歩だけ、こっちにおいで。