熱に溶ける3 | ナノ




最悪だった。
身も心も最高潮に昇りつめたタイミングであったし、行為に熱中して、ここがいつ誰が来るともしれない解放された空間であることを忘れていた。
「りょ、凌牙……!」
「しっ!」
焦って名前を呼ぶが、鋭く咎められた。凌牙の表情にも濃い焦燥が浮かんでいる。
鉄男達は遊馬らの存在に全く気付いてないようだった。大岩を挟んだ向かい側で騒がしく入浴する声が聞こえてくる。二人は息を殺して時が過ぎるのを待った。
絶対に見つかりたくなかった。凌牙以外の異性に裸を見られるのは嫌だ。それが友達ならなおさらだ。抱き合っているところを見られたら、気まずいどころの話ではない。
(……うう……)
泣きたい気分だった。緊急事態もそうだが、こんな時にあってさえ、疼く下腹部が信じられなかった。
脳内は緊張と焦燥でいっぱいなのに、浅ましい欲はなかなか沈静化せず、膿むような疼きを発している。少し腰を下ろすだけで焦がれるような欲は満たされるのだ。すぐそこにある男根を欲して女陰が収縮するのが分かった。
熱い身体を持て余して凌牙を見つめると、彼も似たような眼差しを向けていた。走り出した車が急に止まれないように、一度火のついた性欲は簡単には治まらない。遊馬も辛いが、凌牙も辛そうだった。
だから、無意識に腰を揺らしてしまった。
「っ……!」
凌牙が息を呑む。性器同士が擦れ合っていた。燻る熱を慰めるように緩く刺激する。膨らんだ秘芽を竿に押し当てるように動いたら、もう止まれなかった。すぐ近くにクラスメイトがいるのに、隠れて淫靡な行為に耽っている背徳感が、より感覚を鋭敏にした。
欲しい。挿れたい。
早く男根に押し開かれ、奥の熱いところを突き上げられることを望んだ。
「ん……、んんっッ!?」
突然、割れ目の上を行き来していた性器が、強く押し当てられた。ぎょっとして目を見開く。目尻を赤く染めた凌牙が責めるような眼差しで睨みつけていた。お前のせいだ、と揺れる青い瞳が語っている。
双丘を掴む手に力が入り、張りつめた怒涛がゆっくり内部へ侵入してきた。
(う、そ……!)
信じられない行動に頭の中が混乱した。身体は凌牙の熱を突き入れてほしがっていたが、残っている理性は否と叫んでいる。こんなことをされて、バレずにいられる自信がない。
張り出した亀頭に身体の内側を捲り上げられると、呼吸が震えた。肩に置いていた手を首に巻きつける。漏れそうになる声を凌牙の頭に押し付けることでどうにか防いだ。ビクビクと背中が震える。
(お湯が……!)
肉棒と一緒に、膣内にあったお湯まで子宮へと押し上げられる。待ち望んでいた質量に内部が震えた。中心を串刺しにされたような圧迫感から、楽な姿勢を探して身体が動く。
その時、うっかり水音を立ててしまい、抱き合った肌が強張るのを感じた。
「……?誰かいるんですか?」
委員長が誰何の声を上げた。水音に気付いたのは彼だけだったようだ。
「どうしたんだ?委員長」
「いえ、何か音がしたような……」
「風の音じゃないウラ?」
「うーん……」
ドクドクと鼓動が早まる。気のせいとして流してほしかった。凌牙と繋がった状態では、さっきみたいに追い払うこともできない。腰を支えていた凌牙の腕が背中に回り、遊馬を隠すように抱きしめられた。遊馬も彼の身体に縋りつく。結合部にも無意識に力が入り、そこから互いの緊張が伝わってきた。
「……そうかもしれません。僕の空耳かも」
だから、その言葉を聞いて、二人は心の底から安堵した。
「でも、この露天風呂って広いんですね。奥に行けそうですよ」
再び喉元に切っ先を突きつけられた心地になる。弛緩しかけた腕に緊張が戻った。
(まずい……まずいって!)
友達だからこの後の展開が分かってしまう。鉄男達は絶対に、こちら側へ踏み込んでくる。探究心を刺激されて、大人しくその場に留まっているわけがない。案の定彼らは騒々しくどつき合いながら、大きく水音を立ててこちらへ近づいてきた。
(…………!!)
頭の中が真っ白になった。強く凌牙に抱きついて目を瞑る。
その時だった。
ばっしゃあん!!
盛大な水音と同時に鈍い音が、岩壁の向こう側で上がった。
「うわああああっ!だっ大丈夫かウラ!?」
「委員長!おいっ、委員長!」
「う、う……」
音から察するに、ぬめる温泉の床に足をとられ、滑ったようだ。どこかにぶつけたらしい。ぐったりした委員長の声に鉄男と徳之助は慌てて、介抱しながら室内へ戻っていった。
(……大丈夫かな、委員長)
去った危機に胸を撫で下ろす一方、委員長の身を案じた。
「……あッ!」
邪魔者がいなくなった途端、動き出した肉棒によって意識が凌牙へ引き戻される。
「あ、ちょ、待っ……りょ、凌牙!」
「待たねえよッ。ぎゅうぎゅう締め付けやがって……!こっちの身にもなれ!」
「あぁッ」
腰を掴まれ、激しく上下に揺さぶられた。カリが膣内の襞を引っ掛けては捲くり上げ、絶え間なく刺激される。けれど温泉の中なので、ベッドとは違って浮力がかかり、狙った通りの場所を上手く穿てないようだった。
「りょ、りょーが、りょうがぁ……!」
「んっ……?」
「奥ッ……!ふっ、そっちじゃ、なくてぇ……!」
望んだ場所を突いてもらえず、蟠った熱が腹の中で蠢いた。崩れそうな膝に力を入れて、イイ場所に当たるように自分から動く。凌牙の動きに合わせて腰を揺らすと、ようやく求めていた奥まで熱が割り入ってきて、湧き上った快楽に喉を仰け反らせた。
「あっ!ッあぁ、そこ、ンあっ、はぁんっ……!」
ばしゃばしゃと水面が激しく波打つ。いつもより強く求められている気がした。互いに我慢していた分、枷が外れてしまったようだ。奥まで凌牙を咥え込み、絶頂を求めて陰核を擦り付けると、喉を鳴らして凌牙は笑った。
「はっ……そこ、弄られるの好きだよなっ……」
「だ、だって……!」
「さっきも自分から押し付けやがるしっ……人の身体使って自慰してんじゃねえよ……っ」
「じっ!?」
思いがけない指摘に目を丸くした。
「ち、ちがっ!凌牙だって、ぁっ、や、やってたじゃんか……!て、鉄男達がいたのに!」
まさかあの状況で挿入されるとは思わなかった。本気で焦ったし、声を殺すのは本当に大変だった。恨めしく思って涙の滲んだ目を向けると、凌牙は笑いながら首筋に口付けてきた。
「お前が煽るからだろ……誘い上手で困るぜ」
「んっ……ぜ、全部俺のせいにするなよ……!凌牙だって、エ、エロい目で見てたじゃん!」
熱に浮かされた凌牙は色っぽかった。全身から匂いたつような色気に当てられて、遊馬も我慢ならなくなったのだ。
「俺はお前に煽られたんだよ。物欲しそうな顔されて、何もせずにいられるわけねえだろ」
「そんな顔してな……!」
「してるさ」
耳の後ろを掴まれ、真っ直ぐ前を向かされた。
「顔赤いし目は潤んでるし……今もすげえエロい顔してるぜ」
「………!」
熱っぽい眼差しにお腹がきゅうっと疼いた。中にいる凌牙をますます締め付けてしまう。
今日は本当におかしい。もっと、もっとと、欲する気持ちが止められない。
きっと何もかも曝け出す照明の下だからだ。暗いベッドの中で手探りに相手の反応を探るのも、心が通い合う感じがして好きだが、分かりやすい反応が見えると灯った火は瞬く間に大きな炎となって燃え上がる。
口付けてきた凌牙の唇も、いつになくしつこかった。何度も舌を吸い上げて離れては、また絡めてくる。長いキスの合間もあちこちを愛撫されて、性器だけでなく、全身が性感帯になったように過敏になった。凌牙に溶かされているようだ。全身から力が抜けて、自分の体重を支えるのも億劫なくらいだった。
「んふっ……!りょ、が……もお、むりィ……!」
温泉の効果で肌が滑る。抱きつく腕も力が入らなくなって、体勢を維持するのも辛い。横になりたかったがこの場では無理だ。寝転がる場所がない。絶頂を迎える前に高ぶりすぎた身体がダウンしてしまいそうで、すすり泣きながら早い解放を求めた。
「っああ、俺も……!」
腰を抱え直して、最後のスパートをかけた。凌牙が与えてくれる快感をひとつも逃さず受け止めようと、意識して腿に力を込める。膣が締まり、肉棒が今にもはきちれそうに脈打っているのを直に感じた。
「あっ、ふ、ハッ、ああッ!ん……!」
「くっ……ゆま、ゆま……!」
「アアッ!りょーが、ぁ、あっ!あァアっ……!」
重く腰を送られて、鋭い快楽が全身を駆け巡った。目の前に閃光が走る。腕も脚も内壁も凌牙に絡みついて、震えながら遊馬はイった。
「ッ……や、べ……!」
続けて凌牙も絶頂を迎えた。急ぎ離れようとしたが、遊馬が抱きついているので間に合わなかったようだ。びくびく震える膣内に、温泉のお湯以外の熱が放出されて広がった。
「あ……」
だるい思考の中でもマズイことはわかった。
凌牙がすぐさま遊馬を抱え、岩の上に押し上げると性器を引き抜いた。お湯と一緒に精液が流れ出てくる。背中を立て看板に預け、体内からあふれ出す感覚に震えた。
「すまねえ!ゴムもねえのに中に出しちまった!」
「だ、大丈夫……だと思う。生理はこの間終わったばっかだし……」
それよりも、体液で湯を汚すことが嫌だった。他にも人が入るのだ。流れ出た白濁が岩肌を伝って温泉内に落ちることを恐れ、腰を引いて看板側に身を寄せた。
火照った身体に夜の冷気が心地いい。背中を看板に凭れさせて、力の入らない肢体を投げ出す。温泉の効能の文字が横目に入った。
「はは……美白どころか、温まって赤くなっちゃったな」
気恥ずかしい雰囲気を冗談で和まそうとしたら、凌牙は視線を下にやって、火照る頬をさらに染めた。
「悪い……温泉じゃなくて、俺がお前ん中、白くしちまったな」
「ちょっ……な、何言ってんだよっ」
「掻き出すぜ」
「あっ」
まだ絶頂の余韻に浸っていたそこへ指を挿入されて、再び思考が熱を帯びた。ふっと意識が浮かぶ。感じてしまう下半身の熱とは別に、頭の中がぐるぐるした。
(あれ?)
快感とは異なる感覚に疑問を抱く。
その途端、目の前の凌牙の姿がぐるんと回った。眩暈がして、ぐらりと上半身が看板の上を滑る。
「遊馬!?」
抱きとめた凌牙が遊馬の顔を覗き込み、はっと目を見開いた。
「おい、お前、のぼせてないか!?」
「う……」
視界が回って気持ち悪かった。だるくて仕方ない。慌てる凌牙の声を耳にしながら、徐々に意識がブラックアウトするのを止められなかった。









『なるほど。風呂を覗かれると死んでしまうというのはこういうことか。遊馬、大丈夫か?』
「心配してくれるんなら、黙っててくれ……」
凌牙によって運ばれた医務室で、興味深々な面持ちのアストラルに力なく呟く。しゃべるのも億劫な状態だった。
「何ひとり言いってんだ。大丈夫かよ?」
団扇を扇いで風を送ってくれる凌牙が気遣わしげに目を細める。僅かに顎を動かして頷き返した。全身が熱くて重たいが、大分マシになった。
「りょーが、ごめん……迷惑かけて……」
対外的には、のぼせて廊下に倒れていた遊馬を凌牙が見つけたことになっている。さっきまで右京先生が様子を見に来ていた。別室では委員長も寝ているので、遊馬のことは凌牙に任せ、今はそちらに行っている。
「あんなとこでおっぱじめて悪かった。側にいてやるから、ゆっくり寝てろ、遊馬」
「ん……」
額に置かれたタオルを交換してくれる。恋人の優しさに感じ入りつつ、遊馬は瞼を下ろした。



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