熱に溶ける2 | ナノ




何度か身体は重ねたけれど、明るい照明の下で裸体を見せたことはない。ベッドから離れた机の上にあるスタンドライトは点けていたが、光量は絞っていた。僅かな明かりを頼りに互いの身体に触れて熱を分け合っていたから、いくら夜とは言え、ライトアップされた露天風呂での行為はいつもより数段恥ずかしいものになった。
「綺麗なピンク色してるんだな。可愛いぜ」
凌牙の膝の上に横向きに抱え上げられると、小さな膨らみは完全に水面から露出してしまう。互いの恥ずかしい部分を隠していたタオルは立て札の下へ投げられ、視線を遮るものはなかった。
「あ、あんま見ないでくれよ……」
腕で隠そうとしたが許されず、前を向かされた。
「減るもんじゃねえし、見せろよ」
「あっ……」
胸の頂にキスをされた。僅かに開いた唇で立ち上がった粒を挟み、甘く噛んでは舌で舐められた。もうひとつの乳房も右手で揉みしだかれ、与えられる刺激に腰から背筋のラインが震えた。縋るものを求めて腕を伸ばし、凌牙の首に絡める。温泉の湯を浴びた肌はツルツルと滑り、しっかり抱えないと滑り落ちてしまいそうだった。
「ふっ……ん……」
身を委ねながらも、頭の片隅で中止すべきだと警鐘が鳴っているのを感じる。いつまた人が入ってくるか分からない。熱い露天風呂のように熱くなる頭へ、夜の冷気にも似た理性が訴えかけてくる。
落ち着かなかった。その反面、興奮もした。いけないことをしているのだという意識が逆に欲を煽り、性急に暴かれることを望んだ。
凌牙も同じ思いなのか、胸への愛撫もそこそこに指が下へ降りていった。臍の窪みを掠め、薄い下生えを掻き分ける。奥まった部分を触れられた時、期待から切ない吐息が鼻から抜けていった。
「凌、牙……」
「足開け……」
内股を撫でられて、促されるままに片足を広げた。彼の腿を跨ぐと、大股を向ける格好になってしまう。顔から火が出そうな羞恥を覚えたが、秘部の中へ押し進んできた長い指に歓喜からの震えが走った。
ところが、続けていつもと違う熱が流れ込んできて、はっと目を瞠った。
「やっ!お湯が……!」
指で開かれたそこへ源泉百パーセントの出湯がなだれ込んでくる。体温よりも温泉の温度の方が高い。繊細な内壁はお湯の温度にピリピリと震え、収縮した。いつもと違う感覚に遊馬も悶え、凌牙に縋る腕を強くする。
「……本当に煽るの上手えな」
胸の中で落ちた呟きにはっとした。凌牙の頬に乳房を押し付けるような格好になっていたのに気付く。
「うわああっ」
凭れかかっていた身体を起こしたが、指で内部を抉られて上半身が崩れ落ちた。結局、彼の肩にのしかかる体勢になってしまう。
「はっ……ん……は、恥ずかしいっ……」
「俺しか見てねえんだ。気にすんな」
「だ、だって……ぁっ……明かりが……」
感じている身体も、表情も、光の下に晒されている。暗い部屋の中での行為でも、一応光源はあったから互いの姿は捉えられていたが、身体の隅々まで見られていたわけじゃない。凌牙の肌が綺麗だから、遊馬は恥ずかしくなった。彼が執拗に肩の白い部分に口付けていると気付くと、耐え難い羞恥心から、凭れかかっていた身体を起こした。
「ま、待って!やっぱり待って……!」
指が自分の中から引き抜かれる。その感覚に甘い疼きを覚えつつも、遊馬は膝から降りると首までお湯の中に浸かった。
「どうした?」
尋ねる凌牙の視線から逃れるように背中を向ける。
「やっぱりイヤだ。明るくて……」
「そんなことかよ」
「だって……凌牙がキレイすぎるのが悪い!」
背中越しに振り返ると、彼は怪訝そうに眉を寄せた。
「は……?」
「男のくせになんでそんなに白いんだよ!ホクロひとつないし!日焼けし放題の俺がなんか惨めじゃんか!」
女子の夏服はノースリーブだ。私服も夏場は腕むき出しの格好をしていた。よって遊馬の肩口は今でも焼けた部分とそうでない白い部分がくっきりと分かれている。
薄暗いベッドの中ではよく見えなかっただろうが、こんなに明るい場所では絶対に気付かれた。現に凌牙はその境目を舌で辿っていた。綺麗な肌をした恋人に見苦しい身体を見せるのは、恥ずかしいし、悔しかった。口までお湯につかってブクブク泡を立てていると、後ろから呆れた声が聞こえた。
「……で?いつまでそうやってるつもりだ?」
「綺麗になるまで!美人の湯なんだし!」
「美人の湯……?」
凌牙が立て札に視線を向けた。効能の部分を読んだ彼は、溜息をひとつ吐くと、遊馬の腰に手を回して後ろから抱き寄せた。
「あっこら、離せって!」
「毎日入らなきゃ美白も何もねえだろ……。それに俺は日焼けって結構好きだぜ」
「え?」
意外な思いで振り返る。凌牙は口元を上げて再び肩口に吸い付いてきた。
「そそられるんだよ。白いところは暴きたてた後みてえで、興奮する」
「あっ……」
小さな痛みが走り、キスマークを付けられたと分かった。肩の焼けた部分との境界線に、ふたつみっつと赤い華が咲く。
遊馬は慌てた。
「待ったああ!林間学校は今日で終わりじゃないんだぞ!?皆と一緒に風呂入れなくなるじゃんか!」
「ああ……悪い。強く吸ってねえからそんなに付かねえと思ったんだが」
「いつも付けてるくせに何言ってるんだよ!わかってやっただろ!?」
「いつもは暗くてよく見えねえんだよ」
白い肌に映える赤色をまじまじと見つめ、凌牙は言った。
「お前、肌が柔らかいんだな。覚えとくぜ」
明かりのある場所だから気付いたことだった。
遊馬は思った。隠れようのない照明の下での行為はとてつもなく恥ずかしいが、その分、普段は見えないものも曝け出されるのかもしれない。凌牙が日焼けの痕を好むなど、普段の交わりからはきっと分からなかっただろう。
日に焼けていない――つまり普段は服に隠れている部分を許せる異性は凌牙だけだ。アストラルや鉄男達には絶対に見られなくない。そして凌牙がこんなに綺麗な肌をしていることも、知っている女の子は遊馬だけでありたい。
好きな相手のことなら何だって知りたいし、全部を見せてほしいと願う。身体を繋げると心もぐっと近くに感じるが、まだまだ知らないこともいっぱいあるのだろう。そうした全てを欲しいと思うのも、好きなら自然な感情だ。
「……あっ……」
後ろから抱えていた凌牙の手が、再び股の間へ下りてきた。2本の指が割れ目を押し開くように侵入してくる。第二間接まで入ったそれが広げられ、温泉の湯が流れ込む感覚に内股が震えた。
「ああッ!熱い……!」
一度温泉の湯を迎えた膣内は、高い温度に馴染みつつあったが、熱い部分に別の熱を注ぎ込まれると、なおさら熱くなる。遊馬は反射的に身を起こしたが、挿入されているのとは反対の手で胸を揉まれ、引き戻された。頭部を凌牙の肩に預ける格好になる。後ろから抱えられている体勢では掴むものがなくて、上と下とを愛撫する手に自分のそれを重ねて縋った。
「美白効果があるんだよな、これ。お前のナカも白くなるんじゃねえか?」
カァッと頬が赤くなった。襞を一枚一枚捲り上げては湯を擦り付けるように指が動いている。
「い、色なんて知らないくせに……!」
「知らねえよ。けど、どこがいいかは知ってるぜ」
「――あッ!」
弱い部分をピンポイントで押され、背中が反った。中指で性感帯を刺激し続けながら、人差し指を蠢かし、膣内を解す。膨らんだ陰核も忘れることなく可愛がられ、遊馬は嬌声を抑えられなかった。
「あっ、ん!はァッ、あ、ァア……!」
「こっちも好きだよな」
「やめっ、ぁっ、凌牙……んアッ」
興奮から立った乳首を遠慮なく押しつぶされ、甘く喉が鳴る。絶え間ない快楽に悶えて腕が水面を叩いた。大きな波紋がいくつも上がっては新しい波にかき消される。
「だめ、だめっ……凌牙、りょーがぁ……!」
上半身を捩って、額を彼の首根に擦り付けた。もう充分だった。高められた熱が爆ぜることを望んで全身を駆け回っている。お尻に当たっている彼の熱を挿れてほしくて、勝手に腰が揺れた。ぐいぐいと下半身を押し付けてしまう。
「ッ……俺もやべえ!」
余裕のない声で指を引き抜かれた。体内から出て行く感覚に脱力した遊馬は、強い力で身体を反転させられた。顎を上げられ、噛み付くようなキスをされる。
「んんぅ……!」
荒々しく舌を絡め取られた。ざらざらした粘膜同士を擦り合わせながら、身体を動かして落ち着く体位を探る。遊馬が上に乗っている状態なので、膝立ちになり、凌牙の腰を跨いだ。
「……っゆま……」
「ふっ……あ……」
唇を離され、大きく酸素を吸い込んだ。間近にある青い双眸が熱をもって揺らめいていた。いつも涼しげな凌牙がそんな色を浮かべるなんて知らなかった。新鮮な驚きと同時に、女陰が疼くのを感じた。男根に手を伸ばすと、余裕なく脈打っているのが分かる。
思い返せば、肌が触れ合うだけで煽られていた凌牙だ。露天風呂という普段ないシチュエーションもあって、興奮しているのかもしれない。温泉の温度の中でも、火傷しそうな熱が伝わってきた。数回扱くと角度が上がる。その高ぶりに自分の性器を押し当てた。凌牙が臀部を支えて挿入を補助してくれる。彼のリードに促され、腰を下ろそうとした。

まさにその時だった。

「――うわあっ!?寒いウラ!」
室内浴場のドアが開く音と共に、とても知った声を聞き、二人は大きく身体を跳ねさせた。
(この声……って……)
冷水を浴びせられたような心地になる。
「露天風呂なんだから当たり前だろ。何月だと思ってんだよ」
「これでは戻る時、湯冷めしてしまいそうですね。しっかり温まらなくては」
続けて聞こえてきた声に、遊馬は愕然たる衝撃を受けた。
(徳之助!?鉄男に委員長まで……!)
最悪だ。



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