俺がお前を好きなんだ、お前も俺を好きになれ | ナノ


俺がお前を好きなんだ、お前も俺を好きになれ


「シャ、シャーク……!あの、お願いだから待って……」
天気は快晴。のどかな昼休み。
屋上で凌牙とお昼を共にしていた遊馬は、眼前に迫った男の顔を見上げて汗を垂らした。
じりじり近づいてくる凌牙から逃れようとして、座ったまま後退りをする。が、背中がフェンスに当たったことで、逃げ場がなくなったことに気がついた。
カシャン、と遊馬の頭上でフェンスが軋んだ音を立てる。
覆い被さるように遊馬の顔を覗きこんでいる凌牙が、片手をフェンスについて、さらに遊馬との距離を縮めてきたのだ。
(ま、まずい……!)
凌牙の体温を感じかねないほど迫られて、遊馬は顔を朱くする。
慌てるその様を、凌牙はひどく楽しげに見下ろしていた。
「待てって、おまえはいつもそれだな」
「いつもシャークがこうやって迫ってくるからだろ……!俺は普通に昼メシ食べたいだけなのに!」
「好きなやつにメシ誘われて、しかも連れてこられたのは人気のない屋上。これで何もしないわけねぇだろ」
そう言われると答えに窮する。
目の前にいる彼、凌牙から好意を寄せられていると知ったのは、もうだいぶ前になる。
本人から打ち明けられて、同じ想いを求められもしたが、遊馬は応えることができなかった。
なぜなら自分が恋愛をすることも恋人の関係になることも、いまいちピンと来なかったからだ。
それよりもデュエルに興味関心の大部分が向かっていた遊馬は、素直にそれを口にした。
自分が求めているのはデュエリストとしての神代凌牙なのだと。
だが、それで引き下がってくれるほど生半可な相手ではなかった。
『そうか。なら、俺のことを好きにさせてやる。覚悟するんだな、遊馬。――え?なんで諦めないのかって?じゃあおまえはデュエルする前から勝負を諦めるのかよ。違うだろ。最後まで諦めないってことを、俺はおまえから教えられたんだからな』
そう宣言した翌日から、凌牙の攻勢は始まった。
人目のある場所では憚るものの、ふたりきりになった途端、遠慮なく口説いてくる。
今日とて、祖母特製愛情弁当に箸をつけて幾分もたたない内に、こうしてフェンス際まで追い詰められているのだ。
キスでもするつもりなのか顔を近づけてきた凌牙に、赤くなった顔を背けた。
「や、やめてくれよ……!」
「なんでだ。おまえからメシ誘ってきたくせに。こうしてほしかったんじゃねぇのか?」
「違うよ!ただ、ひとりで昼メシ食べるのは寂しいだろうなって、そう思ったから……」
最近はきちんと登校するようになったとはいえ、もともと友達らしい友達のいない凌牙だ。校内で見かける彼はいつもひとりだった。
凌牙から取り巻きを奪った原因は遊馬である。罪悪感は少なからずあった。
それに、ひとりの食事はとても寂しいものだ。姉と祖母がいるとはいえ、両親を失った遊馬は幼少期に何度もひとりの食事を経験したことがあり、その寂しさを知るものとして放っておけなかった。
「――なんだ。残念だな。やっと応えてくれる気になったのかと思ったんだが」
やっと身を離してくれて、ほっと息を吐く。
また掴まってしまわないようにフェンスの近くから離れて――ついでに凌牙からもやや距離を置いて座り直した。
「おい、なんでそっちに行くんだ」
凌牙が不満の声を上げたが、聞こえなかったことにして弁当を口に運ぶ。
彼に構っていたらお昼を食べる時間がなくなってしまう。
「シャークも早くご飯食べろよ。昼休み終わっちまうぜ」
「午後はフケる予定だからいいんだよ。後でゆっくり食べる」
「またそんなこと言って……。せっかく学校来るようになったのに……」
「おまえに会いに来てるようなものだからな。こうしていられる時間の方が俺には重要なんだよ」
ふと優しい眼差しで見つめられ、ドキッと心臓が跳ねる。
(その顔は反則だって!!)
あの美術館の夜のあと、凌牙は時折この様に柔らかな表情を覗かせるようになった。
今ではそこに、遊馬を愛おしく思う熱が孕んでいるのがわかる。
凌牙のことは嫌いではない。むしろ好きなのだが、こういうのは困る。凌牙とデュエルはしたいが、恋愛をする気はないのだ。
なのに凌牙は遊馬の拒否する姿勢をもろともせず、触れて、好きだと囁いてきて、これまで通りの関係でいることを許してくれない。
今もまた、ふたりの間の距離を詰められ、再び目の前にやって来る。
好き勝手にされては堪らない。遊馬はとっさに、弁当の中のタコさんウインナーを箸で掴んで、凌牙の口に突っ込んだ。
「!?……っ、オイ遊馬……」
「いいから黙って食べろよ!……その、シャークいつも昼、パンとかばっかりじゃん。それじゃ栄養偏るし……」
凌牙の気をそらそうと言い募るが、それは前々から気になっていたことでもあった。
口に入れられたウインナーをやむなく咀嚼する凌牙に、すかさず卵焼きを差し出す。少しでも口説かれるのを防ぐためだ。
しかし凌牙は、差し出された卵焼きを見つめ、ニヤリと口元を上げた。
「食わせてくれんのか?ずいぶん積極的だな」
「ッ、なっ!ち、違……!!」
指摘されて初めて恥ずかしいことをしたことに気がつき、頬に朱が昇る。慌てて箸を下ろそうとしたが、その手をとられた。
「もらうぜ」
「あっ……」
箸の先をそのまま口の中へ持っていかれる。
卵焼きを食べたあと、凌牙は差し出したままの箸の先端を、見せつけるようにペロリと舐めた。
「!!!」
「間接キスだな。俺としては本当のキスもしたいところだが、許してくれないんじゃしょうがねぇ。これで我慢しておいてやるよ」
ごちそうさん。その凌牙の言葉や、視線や仕草に心臓が激しく暴れだす。きっと耳まで朱くなっているに違いない。
(しょ、しょうがないじゃんか!こんなことされて、ドキドキするなってほうが無理だよ!)
恋愛には興味が湧かないが、こんな風に迫られ続けたらどうなってしまうのだろう?
そう遠くない将来、根負けしそうな自分が想像できて、遊馬は天を仰いだ。



タイトルby確かに恋だった
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