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バスの運転手(凌+ゆま)
 

その日、凌牙はプロリーグが隣町で開催されるということで、朝早くから会場に向かうバス停に並んでいた。同じ目的だと思われる人達が既に長い列を作っており、凌牙の後ろにもまだまだ人が続いている。
(これじゃ全員乗れないんじゃねえか?)
凌牙の危惧通り、やって来たバスには座ることはおろか、立つ場所を確保するだけでも大変な有り様だった。凌牙も人をかき分け、一番前の運転手のすぐ横のスペースに身を滑らせる。
「すいませーん!お客様、もう一歩、もう一歩だけ前にお詰め下さい!」
あまりの人数に車内アナウンスがかかる。ちらりと横目で見ると、赤い前髪をした、まだ若い運転手だった。想定外の乗車率に困惑している様子だ。
何とか客を詰め込んで発車をしたが、途中立ち寄る停留所で新たに乗り込もうとする客は断らなければならない状態だった。
「申し訳ありません!次のバスをご利用下さい!」
停留所の度に車外アナウンスをして謝っている。仕事とはいえ可哀想に、と同情を寄せつつ外の景色を見ていた凌牙は、バスが曲がるべき場所で曲がらなかったのに気付いた。
(え?こっちからも行けたっけか)
普段からバスを利用しているわけではないので、他に道があるのかとも思ったが、凌牙の他にも気付いた乗客がいたらしい。囁き合う声が聞こえた。そこで隣の運転手が、あっと声を上げる。
「す、すいません!道間違えましたぁぁぁ!!」
瞬間、車内は爆笑に包まれた。凌牙もつい吹き出してしまう。
ごめんなさい、お客さんいっぱいで焦ってて、と平謝りして若い運転手は進路を変える。
いっぱいいっぱいな様子を見て、頑張れよ、と心の中で呟いた。



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