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花粉症(凌ゆま♀)
 

近頃、学校で凌牙の姿を見ていない。遊馬がそう気付いた時には、不登校期間は1週間にも及んでいた。
これはおかしい。真面目に学生をやっているとは言い難い凌牙だが、1〜2日サボることはあっても連続して長期間休むなんてしなかった。少なくとも午前か午後のどちらか片方は出席するようにしていたはずだ。
(まさか、何かの事件に巻き込まれてるんじゃ……!?)
不登校と言えば、陸王海王にもとへ身を寄せていた時もそうだった。遊馬と出会うまで凌牙は結構派手に暴れていたらしい。多方面から恨みを買っていたとしても不思議はない。不良グループから足を洗ったとは言え、そういう輩にとっては関係のない話だ。凌牙から彼らの側へ関与することはなくても、彼らの側から近づいてこられたら向き合わざるをえない。
不安になった遊馬は放課後、いの一番に凌牙の自宅へ飛んでいった。呼び鈴を鳴らして応答の声が返ってくるのを待つ。
外出している可能性もあったが、運良く在宅していた。ドアを開けて出迎えた彼の姿を見て、遊馬は安堵しかけたが、すぐに笑顔を引っ込めた。
静かな水面を思わせる青い目が、充血して赤くなっている。少しばかり潤んでもいるようだ。口から出てくるのは完全に鼻声だった。かみすぎたのか鼻頭が少し赤くなっている。どこからどう見ても病人の様相を呈していた。
熱があるのではないかと勘ぐった遊馬は、慌てて凌牙の体を室内に押し戻した。腕を引いてベッドのある部屋へ直行する。体がダルくて力が入らないのか、凌牙はされるがままになっていた。
「具合はどうなんだ!?ちゃんと食べたか?薬は!?」
「……一度に質問するな」
緩慢な動作で遊馬の手を振り払うと、ベッドではなく絨毯の上に腰を下ろした。
「駄目だぜ、寝ないと!よくなるもんもならないぜ」
「……勘違いしているようだが、俺は風邪なんか引いてねえからな」
「え?」
ならば何なのかと座り込んだ男を見下ろしていると、大きな嘆息が零れ落ちた。
「……ただの花粉症だ」
「へ……?」
聞けば、花粉症が酷くて登校するのが億劫になり、自主休講していたらしい。どうせ登校してもまともに授業を受けている時間は短い。だったら花粉の飛んでいる外などに出ず、ずっと自宅に閉じこもって療養していたほうが症状は軽くて済む。
「なんだぁ。一大事かと思って焦ったぜ」
「俺にとっちゃ一大事だ。罹ってねえやつは気楽で羨ましいぜ……」
しんどそうに鼻をかむ姿から、大分参っているのが読み取れた。
「……遊馬。やっぱり寝る。枕になれ」
「いいけど、すぐそこにベッドがあるんだからそっちに寝たほうがいいじゃないか?」
「四の五の言わず、そこに座れ」
「……へーい」
絨毯に膝をついて崩した正座をとると、その上に凌牙が頭を乗せて横になった。膝枕の状態だ。乱れた髪を整えるように撫でると、気持ち良さそうに目を細める。そうしていると鋭い面差しも緩んで、取っつきにくい雰囲気も和らぐから、遊馬もリラックスして体の力を抜いた。
(これ、凌牙なりの甘え方なんだよな)
素直じゃない年上の彼氏だが、そっけない言動の端々から本当の気持ちは伝わってくる。花粉を避けて外出を控えていた凌牙は人寂しかったのかもしれない。そう思うと、遊馬の心は甘くくすぐられた。
(可愛い)
口に出したら恐ろしい目で睨まれそうだったので心の中で思うに留めた。
けれど、聡い彼氏は勘付いたらしい。
「……なんだ」
たちまち機嫌を損ねるものだから、遊馬は急いで口元を引き締めた。
「ううん。なんでもなーい!早く花粉の季節が終わるといいな」
「まったくだぜ……」



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