memoログ | ナノ

 

こっちを見ていろ(凌ゆま←トロン兄弟)
 

なんで遊馬とあいつら兄弟が一緒にいるんだ。
偶然その場を通りかかった凌牙は、まず目を疑い、次いで全身の血が沸騰しそうな怒りが駆け巡るのを感じた。
遊馬は凌牙にとって恩人だ。あんなきな臭い連中と関わって欲しくない。
それと同時に強い焦燥も感じた。彼らが遊馬に特別な関心を抱いていることは見て分かる。「関わるな」と言って遊馬を突き放していたため、彼らといつ知り合ったのかも、楽しそうに笑うほど打ち解けたのかも、凌牙は知らなかった。
――遊馬をとられる
ガンガンと鳴る警鐘に突き動かされ、一歩踏み出した凌牙だが、我に返って動きを止めた。
(とられる……?遊馬は俺のもんじゃねえだろ)
遊馬への好意は一方的なものだ。いくら憎い仇が相手とはいえ、遊馬が笑って受け入れているものに口出しするのはどうだろう。
そもそも、手を差しのべた遊馬を拒絶したのは凌牙だ。彼の友好関係に煩く言える立場になかった。
「………」
胸のうちを焦がす炎に歯軋りしつつ、断腸の思いで身を翻した。やつらと一緒にいる遊馬なんて見たくなかった。
視界を他へ移し、離れることで話し声もシャットアウトしようとしたが、その前に明るい遊馬の声が耳に届いた。
「――あれ?シャークじゃん!」
名前を呼ばれて鼓動が跳ねた。足を止めると、背後から足音が駆け寄ってきた。
「どこ行くんだ?私服……ってことは学校じゃないよな?」
「……お前には関係ねえよ」
「そういう言い方しなくったっていいだろー。仲間じゃんか!」
前に回りこんで、にっこり笑顔で言い切る遊馬に、喜びと苛立たしさが湧き上がった。話していたW達よりも、通りすがっただけの凌牙を優先してくれたのは嬉しい。優越感を抱いた。突き放す物言いをしても変わらず気にかけてくれる遊馬の中で、凌牙の存在は揺ぎ無いものになっているのだろう。正直、嬉しかった。
その一方で彼の笑顔に苛立ちを感じるのは、凌牙の気に入らない連中と関わることに対する不満だ。凌牙を仲間だと思っているのになぜ、と腹立たしく思う。凌牙の嫌いなものを遊馬も嫌いにならなければいけない理由などないのに、勝手に不満に思っては苛立っている。見苦しい嫉妬だった。
「……もう俺に関わるんじゃねえ」
本心とは真逆の言葉が口から零れ落ちた。けれど、手に入らないのならいっそ離れてほしいと思う気持ちは、少なからずあった。
遊馬を避けて先に行こうとすると、すれ違い際に腕を掴まれた。
「放っておけるわけないだろ!……Xー!WにVも!シャークに用があるからまた今度なー!」
離れたところにいる兄弟に手を振って別れを告げる。驚く凌牙を責める眼差しで、遊馬は見上げた。
「どうしていつも離れようとするんだよ?俺はシャークと仲良くしたいのに」
「っ……」
動揺して口を閉ざした。素直な言葉に心を揺さぶられる。たった今まで遊馬に向けていた自分勝手な苛立ちが、喜び一色に変化していた。
「それで、どこに行くんだ?俺も一緒に行っていい?」
「…………勝手にしろ」
我ながら現金だと思った。口調だけはそっけなく頷くと、喜色を満面に出した遊馬が弾む足取りで歩き出す。
隣に立つ凌牙の歩調は、心なしか軽くなっていた。



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