memoログ | ナノ

 

望んだものは(43話後V→ゆま)
 

「まさかハルトに抵抗されるなんてね……。他にもいろいろ目算が甘すぎたようだ。一度計画を立て直そう。Dr.フェイカーへの復讐をしくじるわけにはいかないんだ」
そう言ってトロンは、さすがに疲労を隠せない足取りで自室へ引き上げていった。Wはタッグ戦で負けたショックから、荒れた様子でとっくに部屋を出て行っている。トロンを見送ったのはVとXのふたりだった。リビングのドアが閉まったのを見て、Vは傍らの長兄を窺い見た。
「トロンの言うとおりだ。二度と失敗は許されない……。私たちも気を引き締めないとな」
「……そう、ですね」
険しい表情で決意を固めるXの言葉に、Vは曖昧な動作で頷いた。それにXがピクリと眉を動かす。
「どうした?気になることでもあるのか」
「いえ……ただ……」
口を開いては閉じ、躊躇う間を置いて、Vは兄を見上げた。
「……X兄様はどう思いました?九十九遊馬を……」
「ああ……彼か」
Xの表情に固さが戻った。
「今回最大の誤算は彼だったな。カイト一人なら、ハルトの身柄を拘束している時点でこちらに分があったが……」
「いえ、そういうことではなく……。彼の言っていることを聞いて、兄様は何とも思わなかったのですか?」
「……ああ、『デュエルは復讐の道具ではない』、か?」
Xのブルーの瞳が暗い色を帯びた。
「子供の戯言だな。幼いと感じた。気性が真っ直ぐなのだろう。粘って諦めない精神は賞賛に値するが、しょせんは子供だ。世間を知らない。――真の闇を知らない」
Xの暗い声に、Vは俯いた。忘れもしない凄惨な過去のヴィジョンが脳裏をよぎる。Dr.フェイカーによってすべてを奪われ、真っ黒な絶望の中、呆然と立ちすくむしかない自分たちの姿が見えた。
「言っていることは立派だが……闇を知らない子供に、私達の何が分かる」
眉間に皺を寄せて、Xは吐き捨てた。Vは心の痛みを堪えて唇を噛む。
兄の気持ちは分かりすぎるほど知れた。V達兄弟は同じ痛みを経験している。Dr.フェイカーを憎む気持ちはVの中にも確かにあった。
(けれど……)
復讐をするのは、違うんじゃないか。
憎くても、恨んでいても、仕返しをするのは間違っているんじゃないか。
Vにはその思いがどうしても抜けなかった。目には目を、歯には歯を、というが、正当な処罰であっても相手を傷つけることに違いはない。殴れば殴ったほうとて痛みを感じるように、処罰する側も無傷ではいられないのだ。
復讐を果たせばさぞかし清々しい気分になれるだろう。積年の恨みを晴らし、心は満ち足りるはずだ。だが一方で、相手を痛めつけた感覚が後を引いて付きまとうことになる。
(X兄様は知らないんだ。あまり前面に出ることのない人だから……。僕は知っている。W兄様の後ろで、たくさん見てきた。兄様に叩きのめされて絶望に突き落とされる人々の顔を……)
次兄のサディズムには口を出さないと決めているVだが、決して気分のいいものではなかった。お目付け役の立場上、Wが暴走しないように目をそらすこともできない。幾人も断末魔の悲鳴を上げて倒れ付す様を目の当たりにして、口には出さずにいたが、心は痛んだ。そして迷いが生じた。Dr.フェイカーへの復讐は正当なものだ。しかし、同じ思いをさせようとするのは違うのではないか。何らかの形で罰したいと望むが、復讐という手段は間違っていないだろうか。
だから遊馬の言葉を聞いて、目が醒めた思いがした。彼はデュエルを暴行目的で使うことに怒り、他の者を守るために我が身を盾にした。相手を叩きのめすデュエルばかり見ていたVには衝撃だった。強く心を揺さぶられ、そして、知らず押し殺していた本心に気付いた。
(僕が望んでいるのは彼のデュエルだ)
痛めつけるデュエルなんてもうたくさんだった。痛いのは苦しい。Dr.フェイカーによって痛めつけられた者だから言える。傷つけるデュエルより、誰かを守るデュエルのほうが、ずっといい。
(Dr.フェイカーは許せない。でも、復讐というやり方は間違っていると思う。他にどうすればいいかなんて僕には分からないけれど……)
Vは閉じられた豪奢な窓の向こうを見つめた。
(遊馬。君のデュエルに、僕の求める答があるのかな)
あの真っ直ぐな光を宿した少年に、また会いたいと思った。



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