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奪い奪われ奪い返して(W→凌ゆま)
 

Wにキスをされた。
不覚だった。油断していた自分に腹が立つ。凌牙は爪が食い込むほど力を込めて拳を握った。驚愕のあまり硬直して、唖然とWを見上げることしか出来なかった自分を殴りたい。勝手に唇を奪って満足げに去って行ったWの顔を思い出すと虫酸が走った。
何度も拭った唇を手の甲に擦り付ける。Wの唇の感触がまだ残っていた。それが許せない。
「くそっ」
舌打ちをすると、離れたところから名前を呼ぶ声が聞こえた。遊馬が手を振りながら駆け寄ってくるのが見える。その表情は彼に似つかわしくなく、険しい色をしていた。
「シャーク!Wとキスしたって、本当か……!?」
揺れる瞳で問いかけられ、凌牙は固まった。なぜそれを遊馬が知っているのだ。
絶句していると、それを答と受け取った彼が泣きそうに顔を歪めた。
「さっきそこでWと会って……浮かれたアイツがシャークとキスしたって言ってたから、まさかと思ったんだけど……」
「あ……いや……すまねえ……」
強引に奪われたとはいえ、恋人が他の人物とキスしたと聞いて穏やかでいられるわけがない。凌牙だって被害者なのだが、遊馬に悪いと思って、後ろめたさから目をそらした。
すると、遊馬にガシリと両肩を掴まれた。
「あ、安心してくれ!奪われたキスは俺が取り返して来たからな!」
「は?」
凌牙は眉を寄せた。形ないものをどうすれば取り戻せるというのか。
疑問に思ったのもつかの間、首の後ろを引き寄せられた。唇と唇が重なる。突然の接触に驚いて目を見開いた。
キスをするのはいつも凌牙からで、遊馬は恥ずかしそうに頬を染めるのが常だ。彼からキスされるなんて初めてだった。
ただ触れ合うだけで離れていった顔を見つめる。慣れないことをして羞恥に赤面しつつも、一生懸命、凌牙を見上げていた。
「こ、これでWとのキスはチャラだよな。奪ったもんを返したんだし……」
その発言の意味するところに気付いた凌牙は顔色を変えた。
「おい。まさかおまえ、Wとキスしたんじゃ……」
「だ……だってしょうがないじゃんか!シャークが俺以外のやつとキスするなんて嫌だ!なかったことにするなら返してもらわないと……!」
「――馬鹿野郎!!」
腹の底から怒声を吐き出した。遊馬はビクリと肩を震わせる。潤んだ大きな目で見上げられるとたまらなく胸が掻き締められるが、今はその甘い衝動も鳴りを潜めていた。
「馬鹿だ馬鹿だと思っちゃいたが、そこまで馬鹿なのか、おまえは!取り返すためにキスをしただと?意味わかんねえ!」
「だ、だって悔しかったんだよっ!」
「俺だって悔しいぜ!」
遊馬が他のやつとキスしたなんて考えたくもない。しかも相手はWだ。嫉妬でどうにかなってしまいそうだった。遊馬から口付けてもらったのはこれが初めてだったのに、凌牙より先にWとしていたなんて腹立たしいレベルを超えている。本気でWを抹殺したい。激しい憤りが胸を焦がした。
マグマのような憤怒は凌牙のうちに収まりきらず、遊馬に向かって溢れ出した。強い力で顎を捕らえると、上を向かせて荒々しく口付ける。
「ぅんんッ」
苦しそうな声が聞こえたけれど許すつもりはなかった。閉じようとする歯列を強引にこじ開けて熱い舌を絡め取る。痛いくらい吸ってやると、息継ぐ間もない猛攻に耐えかねた遊馬が胸を押して唇を離した。
「はっ、はっ……!な、何するんだよ……!」
「怒らせるような真似をしたのはお前だろ。覚悟するんだな」
「俺は取り返してきただけじゃないか……!そもそも奪われるシャークが悪い!俺だって怒ってるんだ!」
「黙れ。イラッとするぜ」
「そんな勝手な……っン!」
うるさく喚く口を塞いだ。けれど今度は遊馬も黙っていなかった。負けじと口を開いて凌牙の唇に噛みついてくる。双方とも主導権を握ろうとして激しく舌を絡ませ合った。唾液が二人の口内を行き来し、卑猥な水音を立てる。溢れた唾液が口の端から流れ落ちるのも構わず、睨み合いながら獣のように二人は唇を頬張った。

元ネタ:「風光る」31巻、沖セイ←斉のちゅー話



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