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裁断者の憂苦(22話後カイト独白)
 

ナンバーズを持つものは悪だ。そう教えられた。
後ろめたい感情がないわけではなかったが、悪人相手ならば、ナンバーズを全て揃えるために魂ごと狩ったとしても構わないだろうと思っていた。
道徳的な問題はあるにせよ、悪者ならばいずれ彼らは悪を行い、捕まって裁かれるのだろう。
その前に俺が手を下したとて、その行為を悪と言えるだろうか?
そう考えて任務を遂行してきた。
――だが、この事態はどうすればいい?

オービタル7と共に、現在居住している自室へ戻ったカイトは、暗い部屋で己の右手を見つめていた。
九十九遊馬が“シャーク”と呼んだ紫の髪の少年。
奴の言葉を鵜呑みにして、ナンバーズの確認もせずに魂を狩ってしまった。
常ならば魂は砕け、後にはナンバーズカードだけが残るはずが、あの少年の魂は砕けなかった。
それは彼が狩るに値する悪人ではなく、善良な一般市民であったことを意味していた。
「……この俺がミスをするとはな」
プレイングミスなどしない、無能者は大嫌いだと言った自分自身が、最も大きな過ちを犯してしまった。
相手が悪人であれば良かったのに、と思う。
それが免罪符となってくれた。
そう考えた時、カイトは自分の本心に気がついた。
「魂ごとナンバーズを狩る……その行為を心から受け入れていたわけじゃなかったんだな……」
今でも右手に違和感があるように思えてならない。
いつもならすぐに砕けて消える魂が長く手中にあったせいで、手袋越しにその感触を感じることになってしまった。
魂は重さなどないように軽かった。ほんのりと温かくて、少し押せば変形するほど脆く思えるのに、簡単には壊れない弾力性があった。
これが、魂。
軽くて、脆くて、でも強い。
これが、人の命。
カイトが今まで狩ってきたもの……。
重苦しい罪悪感がカイトにのしかかる。
耐えるようにきつく目を閉じて、ふらりとベッドに沈み込んだ。
フォトンチェンジによって肉体的にも精神的にも疲労の溜まっていた身体から力が抜けていく。
シャークというあの少年はナンバーズハンターを知っていた。きっと九十九遊馬から聞いていたのだろう。
ナンバーズをかけたデュエルで負ければ魂ごと奪われるということも知っていたのだろうか。
考えても分からないし、これから先も分かることはないだろう。
彼の口はカイトが永遠に閉ざしたも同然なのだから。
「……だが、分かっていることもある」
瞼を持ち上げ、ベッドサイドにある写真立てを見た。そこにはハルトと一緒に撮った写真が飾られていた。
「奴は……九十九遊馬のために闘ったんだな」
――すまねぇ、遊馬……。
皇の鍵を渡すまいと嘘をついてまでデュエルに持ち込んだ彼の少年の言動と、彼の最後の言葉がそれを物語っていた。
だからこそ、カイトはなおさら罪悪感を覚えている。
「同じだったんだな。俺と奴は……」
遊馬のために闘ったシャーク。
ハルトのために闘っているカイト。
目的は異なるが誰かのために決闘をしたというのは同じだ。
あの少年が自分と似たような思いで闘っていたというなら、少しは彼の気持ちがわかるような気がした。
敗北して目的を果たせなかった無念は無論あるだろうが、自らの行動には満足していたことだろう。
カイトがそうだからだ。
悪人相手とはいえ魂狩りを行えたのは、ハルトのためだから。
カイトにとって最も大きな免罪符はハルトの存在だ。最愛の弟を救うことに甘美な使命感を覚えている。
「あの少年には気の毒なことをしたが……きっと分かってくれるだろう」
間違いに気付いたところで戻し方がわからず、右手の中に消えていった魂。
まとわりつく迷いを振り払うように強く拳を握って、身を起こす。
「ナンバーズを持つ者は悪人。……ならば俺も悪人なのだろうな」
少なくともあのシャークという少年にとっては。
今回のカイトは裁断者ではなく、確実に加害者側だ。
しかし全てはハルトのため。
強い使命感がカイトの迷いを振り落とす。
今頃オービタル7が皇の鍵の分析をしていることだろう。
またサボって居眠りなどしていないか確認してこなければ。

ナンバーズ所持者は悪人だから。ハルトのためだから。
いくつもの免罪符で心を覆い隠し、カイトは暗い部屋を出ていった。



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