memoログ | ナノ

 

想いは伝えない(凌→←ゆま)
 

突然、抱きしめられた。遊馬はびっくりして目を丸くする。
凭れかかった凌牙は遊馬の肩口に顔を埋めた。
「シャーク?どうしたんだ?」
「……ちょっとこうさせろ」
どことなく元気のない声だった。そこで話されると吐息が肌をかすめてくすぐったいのだが、抱きしめると言うより抱きついていると言ったほうが相応しい状態が珍しくて、遊馬は何も言わず肩を貸した。声音や絡みつく腕にも力がない。心か体のどちらか、または両方が弱っているのかもしれない。
(こんなシャーク見るの初めてだ)
心配で軽く背中を叩くと、ぴくりと頭部が動いて、しがみつく腕が強くなった。ちょっと息苦しかったけれど、構わず手を動かす。
とんとん、とんとん
力を入れず、リズミカルに背中を叩いた。密着したところから互いの心音が伝わってくる。最初は重ならなかった音が、次第に同じ調子を刻んでいった。
とんとん、とんとん……
手のリズムと二人の鼓動が合わさる。その頃には抱きつく腕から力が抜け、二人は寄り添う形になっていた。
ややあって、凌牙が顔を上げた。重たいものが和らぎ、穏やかな微笑を浮かべている。
「悪かったな、突然」
「ううん。嬉しかったから」
凌牙は基本、人に頼らない。自分のうちに全て抱え込んでしまいがちだ。
弱っているところを晒し、寄っかかってくれたことが嬉しかった。その対象に他の誰でもない遊馬を選んでくれたことに喜びを感じた。
素直にそう告げると、凌牙は眩しいものを見るように目を細め、体を離した。
「……やっぱ俺にはもったいねえ」
「え?なにが?」
「こっちの話だ、気にすんな」
「なんだよー、教えろよー」
「うぜぇぜ、あっち行け」
「シャークから引っ付いてきたんじゃないかー」
去ろうとする凌牙の後を雛鳥よろしくつきまとう。口では鬱陶しげにしながらも、凌牙の手は遊馬を突き放そうとしなかった。



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