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そして少年は略奪者となった(W)
 

Wはかつて、全てを奪われた少年だった。
Wだけではない。一家全員が同じ絶望へ突き落とされ、土を舐める屈辱を味わわされた。
生まれが一般的に上流階級と見なされる格式高い家柄であったこともあるのだろう。小さな頃から英才教育を施されたWは仲間内でも常に上位に立つ存在で、潤沢な財産を持つ両親からは大好きなデュエルモンスターズの強力なカードを買ってもらえた。デュエルにしてもテストにしてもスポーツにしても、Wの上に立つ人間は少なく、Wはいつだって勝ち組でいた。こちら側へ入って来れない下等な者を鼻で笑い、関わりを持つことも嫌悪していた。Wは彼らなどとは違うのだ。
だから、その全てを失った時、Wは暗闇のどん底へと突き落とされた。
手中にあった栄光が、とある一人の男の策謀によって掌からすり抜け、消えていった。敗者となるのは一瞬だった。他を踏みにじる側からにじまれる側へ突き落とされ、Wの矜持は酷く傷ついた。激しい憤りが胸を焼く。こんなに苦しい思いをしているのに、世間は一家に無関心だった。
そして少年は悟った。どんな卑劣な手段を用いようが関係ない。最終的に頂点へ立っている者こそが勝者なのだ。
以来、Wは変わった。上へのし上がるためなら、どんな手も厭わない。その裏で何が犠牲になり、傷つこうとも知ったことではなかった。
一家再興のためにと兄弟に送り出された全国大会で、凌牙を罠にかけたことについても、良心の呵責すら覚えなかった。むしろ、優勝候補として崇められ、友人や恋人に恵まれた彼を絶望に叩き落すことに深い充足感を抱いたくらいだ。
「奪われるのが悪いんだよ。それが嫌なら奪い取ればいい」
この世は弱肉強食。一度全てを失ったからこそ、二度と再び薄暗い地底へ引きずり下ろされないために、少年は略奪者の側へ回った。



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