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混浴ネタ没案(凌ゆま♀)
 

町内の福引で当たったのだと一泊二日の温泉旅行ペアチケットを差し出され、誘われた凌牙は、特に予定もなかったので頷いた。遊馬はとてもこの旅行を楽しみにしていたようだ。旅館に到着して仲居さんに受付まで案内されている今も、大きな紅い目を輝かせて、あちらこちらを見回している。
「大浴場は一階になります。あと、ご家族貸切の檜風呂もご用意できますよ」
女将からの説明を聞くのはもっぱら凌牙の係だ。ところが貸切という単語に引かれた遊馬が話に割って入ってきた。
「えっ?貸切のお風呂なんてあるの?」
「ええ、別に料金を頂くことになりますが、それでよろしければ」
にっこりと女将は大人な対応をしてくれる。
凌牙は断りの言葉を告げようとしたが、それを遮って遊馬が手を上げた。
「俺、入ってみたい!家族風呂!」
「おい」
誰がそのお金を払うんだと諌めようとした凌牙だが、すっかりテンションの上がっているらしい遊馬は無邪気な顔で見上げた。
「いいだろ?凌牙。二人でお風呂を貸切だぜ!」
「………」
すっかり落ち着きを失くしている彼女に何を言っても無駄だろう。凌牙はひとつ嘆息すると、女将に利用の旨を伝えた。使用時間を選択して、続いて使用者名を記入する。『神代凌牙』と記した後、ペンを遊馬に渡すと、彼女は少し考えてから筆を滑らせた。
「………!」
その記名に驚き、目を見開いた。
家族風呂と言っても本当に家族しか利用できないわけではない。そういう旅館もあるだろうが、この旅館では一緒に宿泊している者同士なら本当に家族でなくとも使用できる。
しかしそれを知らない遊馬は、凌牙の名前の隣に『神代遊馬』と記名したのだ。その響きにそそられても仕方ないだろう。
「ふっふーん、早く入りたいなあ、楽しみ!」
楽しげに鼻歌を鳴らしてにこにこ笑顔でいる遊馬を見つめる。意識しての行いではないようだった。けれど凌牙は今ので自分の中のスイッチが入ったのを感じる。
(今夜は覚えていろよ……)
貸切のお風呂なら、時間が来るまで誰からも邪魔は入らない。夜のことを思い、凌牙の唇も弧を描いた。



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