memoログ | ナノ

 

魔除け(凌ゆま)
 

※よく分からない世界設定




ここからは別行動だ。
異次元の狭間で、それぞれが向かうべき次元への扉を見つけた遊馬と凌牙は、口にせずとも同じことを思っていることが分かった。顔を見合わせて頷き合う。
「シャーク。ここまで一緒に来てくれて、ありがとな」
「俺だってこっちに用があったんだ。お互い様だろ」
この次元の狭間までは共に闘ってきた。しかしここからは一人だ。頼る仲間はもういなくなる。
遊馬は心細さから萎縮する心を感じ、ぎゅっと皇の鍵を握った。
「……恐ぇか?」
心境を言い当てられて肩が跳ねる。
凌牙は、ひどく優しい表情になった。
「大丈夫だ。お前ならやれるさ」
「そうかな……こんな大事になっちゃって、自信、ないや……」
「どうにかなんだろ。何せ、この俺を倒したことのあるデュエリストなんだからな」
凌牙の言葉に、情けないような嬉しいような複雑な気分になった。彼を一度破ったことがあるのは、今ここにいないアストラルの助言あってこそだ。純粋な遊馬のみの力で勝てたことはない。
なおも不安を拭えずにいる遊馬の心情を察したのか、凌牙は首から下げていたレザーチョーカーを外して差し出した。
「遊馬、これはお前が持っておけ」
「え……」
凌牙がずっと身に付けていたアクセサリーだった。受け取りつつも困惑する。まさか形見にしろと言い出すのではないか。自分の胸に下がる皇の鍵を見て不安になった。遊馬にこれを託した両親は行方不明となり、結果的にペンダントは形見同然の品になってしまった。
「……それな、鮫の歯を加工したものに銀を塗ってあるんだ」
凌牙は踵を返して言った。
「鮫の歯には魔除けの効果があるって言われてる。……その鍵みてえに妙な力があるわけじゃねえが、気休めにはなるだろ」
「シャーク……」
自らの向かうべき扉へと歩み出しながら、背中越しに告げられた台詞に、遊馬は胸を熱くした。ぎゅっと銀色のパーツを握りしめ、声を張り上げる。
「シャーク!ありがとう!これ、絶対返すから!!」
貰うのではない、預かるのだ。絶対にまた会うために。
ここから先、待っているのは戻ってこられる保障がない闘いだ。仲間もなく、たった一人で立ち向かわなければならない。
だが、このチョーカーがあれば心強かった。離れた世界にいても凌牙と繋がっていると思える。この銀色のアクセサリーが、再び二人を引き合わせてくれたらいい。
一度振り返った凌牙は、柔らかく口元を綻ばせた。しかしそれもすぐに引き締まり、バリアン界へ通じる扉の前に立つ。
「じゃあな、遊馬。俺は先に行くぜ」
首から下げたもうひとつのペンダントを掲げた。皇の鍵と同じく金色の、遊馬達の世界にある物質ではないもので構成されたペンダントだ。紅い宝珠が光りだし、重厚な物音を立てて扉が開き出す。
ごうごうと風吹いた。自分達のいた次元とは明らかに異なるにおいが流れ出てくる。異質な世界へ身を投じようとしているのだという事実が、改めて遊馬の胸に迫った。
「シャーク……」
口の中での呟きが聞こえたわけではないだろう。だが扉の向こうに消える直前、凌牙は振り返った。その姿を網膜に焼きつける。
扉が閉ざされ、次元の狭間には遊馬だけが残った。
(でもひとりじゃない)
手中のレザーチョーカーを首につけ、遊馬も面を上げた。自分が向かうべき扉の前に立った。
「アストラル、今行くぜ!」
彼の世界で闘っているだろう相棒のもとへ、遊馬も駆け出した。



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