降り積もる雪と共に


寒い 寒い
異様に寒い…


季節は1月、冬休みなんてあっという間に終わってしまい、休みボケが直らないまま学校に通っていた

そんなある日の出来事

下校時間になって雪がちらつき始めた

あいにく傘は持ってなくて途中まで友達の傘に入れてもらっていた

だけど、家の方向が違うため途中の道で別れた

さらさらとした小さな雪の結晶はじわりじわりと私のコートを濡らしていく

湿ったアスファルトをポケットに手を突っ込んで歩く

歩くたびにローファーがびちょびちょと音をたてて、何だか不愉快になる

「ついてないな…」

ぼそっと小言をもらしたときに、ふと雪がやんだ

不意に空を見上げると透明なビニールの上に雪の結晶が積もっている

そのまま視線を上から後ろに移すと

「濡れるよ」

そう言って傘を差し出してくれていたのは、同じクラスの木山だった

特別仲いいってわけでも無いけど同じバンドがすきだったり、席が近かったりで結構話したりはする

「おー、ありがとう。でも大丈夫、木山が濡れちゃうよ」

そう言って傘を返す

だけど彼は納得いってないようで、受け取ろうとしない

「…じゃあ、送る」

意外な言葉だった

「え?私の家ちょっと遠いけど…」

「大丈夫」

そう言って私から傘を受け取り、半分こ(と、いっても私は一切雪が遮断されているのに木山は左側がだいぶ濡れてる)で一緒に道を歩いた

これって相合傘だよね…?

なんて緊張しながら、それを隠すために気丈に振る舞い、歩きながらたくさんの話をした

バンドの新曲の話、テレビの話、クラスの話

そして

「俺、好きな人いるんだ」

突然の恋愛話

木山の口からそんな言葉が出ると思わなくて、びっくりした

「…クラス替えのとき一目惚れしてさ、初めて喋ったとき同じバンドが好きだって分かって、なんか無性に嬉しくて」

へー、私と木山の他に、あのバンド好きな人クラスにいるのかー

「で、席が近くなって、よく話すようになったら前よりもっと好きになって」

えっ?木山の席の近くっていったら私とも近くじゃん誰だろ?

「でも、雪の日に傘もささないで、ポケットに手を突っ込んで歩いてるような奴でさ」

あはは、私に似たような人もいるんだねー

「あのなぁ!」

と、急に木山が立ち止まり私の肩を掴んできた

その弾みで木山の手に握られていた傘が、バサリと地面に落ちた

「いい加減 気付けよ!」

「え…?」

な、なにが?

木山の顔は、こんな寒い雪の日なのに何故か真っ赤で真っ直ぐ私の目を見ている

「お前の事だよ!」

お前の事…って、今の話、好きな人の事だよね…?

お前って私の事…?

私は驚いて思わず目を見開いた

「…どんだけ鈍いんだよ」

そう言って1度目線を外してから、また真っ直ぐ私の目を見て

「好きなんだよ…。お前の事、ずっと前から…。そんくらい気付けよ、ばか」

そう言って私の肩を引っ張って、木山の腕のなかにすっぽり入ってしまった
「ななな、なにっ?」

近い近い近いよ、木山の顔が私の隣にある「返事は今すぐ欲しい…」

そんな言葉を耳元で吐息混じりに言われて、思わず胸がぎゅと締め付けられた

「…わ、私でいいの?」

やっとの思いで出せた声は余りにも小さく、か細い声だった

「お前じゃなきゃ、だめなんだ」

私とは裏腹に木山の低く甘い声は私の頭をくらくらさせる

それはまるで麻酔のようで私の身体中を駆け巡り、ついに心までにも彼の麻酔が行き渡ってしまった

「…よろしく、お願いします」

そう言って私も木山の背中に手をまわしたら

「…お前の事、絶対 誰にも渡さねーから」

そう言ってもう1度強く抱きしめられてから名残惜しそうに木山の腕が離れた

離れた私たちはお互い顔が真っ赤で、湯気がでてきそうだ

木山は静かに傘を拾うと、もう1度ふたりの頭上に広げた

「帰ろうか」

そう言って再び歩きだした時

「手」

「ん?」

「手だして」

そう言われて手を差しだすと、ぎゅっと握られて、そのまま木山のポケットに入れられた

「このほうが寒くないだろ?」

雪は一層、強くなったみたいだけど、そんな事も気にならないほど私の心も左手も、温かくなっていた…




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