林檎姫




ある時代のある国に、林檎がたいそう好きな姫君がいました。

姫君はそれはもう小さいときから林檎が大好きで大好きで、年がら年中朝から晩まで毎日毎日、林檎を食べていました。


アップルジュースやアップルティー、林檎ジャムは当たり前。アップルパイに林檎のコンポート、アップルブリュレにタルトタタン。林檎のパウンドケーキに蒸しケーキ。勿論、そのままでも召し上がります。


料理人がノイローゼをおこすほど、姫君の異常なまでの林檎好きは治まりません。


ところがある日、国中の林檎が底を尽きてしまいました。勿論、原因は姫君です。けれどもそんな事を知るよしもない姫君は、他のあらゆる国から林檎をかき集めるように命令しました。

姫君は林檎を食べないと超暴力的になるので城の者たちは急いで林檎を取り寄せました。しかし、遂にそれにも限界が訪れました。

国の予算もギリギリの状態で、国民たちはどんどん貧しい生活を余儀なくされました。


そこで、ある日

「姫、青林檎はどうでしょうか?」

ある1人の農民が城を訪ねてそう言いました。その時、ビンッと鋭い音がして青林檎を差し出した農民の首が飛びました。辺りに響く悲鳴と、飛び散る血 痕。

そんなことなど気にもせず、姫君は低く静かな声で言いました。


「私、青は嫌いなの」


そう吐き捨てると血が付いた自らの王剣を見て、


「青しかないならお前の血で赤く染めろ」


にやりと微笑み、その場を立ち去りました。

さぁ、それ以来益々国は荒れ始めました。林檎を摂取してない姫君も荒れ始めました。ですが、林檎はもうほとんど手に入りません。次の収穫期を待つばかり。姫君のイライラも積もるばかり。


ところがある日、城に他国の商人と名乗る男が訪ねてきました。男が背負っているカゴにはそれはそれは美味しそうな艶々な林檎が沢山ありました。

姫君はさぞ喜び、その男を自らの元に呼びました。


「何か褒美をやろう」


金があしらわれた豪華な玉座に座り、長く美しい脚を組み直し、姫は言いました。


「褒美ですか…。でしたら1つお願いが」


男はそう言うと一瞬の隙をつき、短刀を握り締め姫君の元に突進しました。


ズブッ

と、鈍い音がして短刀が刺さると姫はうずくまり、大理石の上に吐血しました。美しい翡翠色のドレスは、みるみるうちに赤黒く染まっていきます。それを見た男は、満足そうに微笑みながら言いました。


「死んでください」




…後から分かった話ですが、その男は姫君に殺された農民の息子だったそうです。

あぁ姫君は大好きだった真っ赤な林檎のように赤く染まって死にました。

姫君の死後、国ではこんな歌が生まれました。





りんご りんご 林檎姫
今宵も全て食らいつくす

りんご りんご 林檎姫
次はどれを食べようかしら

国中の林檎は私のものよ

いいから全て捧げなさい

りんご りんご 林檎姫

逆らう者はさようなら



りんご りんご 林檎姫
真っ赤な林檎が欲しいのよ

りんご りんご 林檎姫
青い林檎は大キライ

青しかないならお前の血で

この林檎を赤く染めろ

りんご りんご 林檎姫

全てが私のものなのよ




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