好きと嫌いと愛してる



君の優柔不断なところが嫌い。本当に嫌い。

例えば、カラオケの受付で時間を聞かれるたび、 いちいちあたしにどうするかを尋ねてくるところ とか。例えば、そこで「なんでもいいよ」と答え ると君が悩み始めて面倒くさいから、「じゃあ2時 間で」なんて、彼女であるあたしが決めなきゃい けないところとか。

いわゆる草食系男子というのか知らないけれど、 みみっちい苛立ちも次第に大きくなるものだ。

ほら、今だって、カラオケのドリンクバーを取り に行ったっきり君は帰ってこない。飲み物を決め るのに何分かかるのだ。呆れたあたしは歌を中断 して頬杖をついた。

テーブルにはマイクが2つ、おかしな方向に転がっ ている。

あーぁ。待ち合わせ場所に着いたらいきなり手を 引っ張られ、『ねぇどこへ行くの』『いいからつ いてこいよ』みたいなやりとりをしながらどこか に連れていかれ、息を切らして2人たどり着いた先 はそれはそれは素敵な花畑でした。

……なんてシチュエーションのデートがしてみた い。肩を抱かれて不意討ちのキスとかも理想的だ と思う。ちょっと不器用で強引だけど優しい感じ の彼が……

「ねぇ」

「ひゃっ!」

妄想を膨らませていると、頬に冷たいものが当た る。

「びっくりしたぁ」

「ごめんごめん」

君がいつの間にか戻って、あたしの顔に、コーラ の入ったグラスをぴたっと当てていたのだった。

「はい」

なんとも天使みたいな顔でグラスを差し出す君。

「くれるの?」

「コーラでよかった?」

まさか、あたしのドリンクを選んでいてあんなに 時間がかかったのだろうか。別にコーラでもお茶 でも水でもなんでもよかったけれど、もらってき てくれたことが素直に嬉しくて、

「コーラがよかった」

とストローをくわえて笑ってみせた。



君の、こういう優しいところは嫌いじゃない。

例えば、奮発して髪を切ったくせに気に入らない としきりに嘆いていれば、「前田敦子ちゃんみた いだよ」というよく分からないフォローをくれる ところとか。例えば、会ったときに雨が降ってい たら「化粧とれちゃうかな」なんてあたしが一番 気になることを察してくれるところとか……、ね。



「ね、」

なんとなく気が良くなったあたしは、カラオケを 出ると君を裏道まで引っ張っていった。

丸いベンチが歩道の端に仲良く並んでいるような 通りで、爪先立ちで見上げてみれば、君は困った なぁなんて顔をしながら、何も言わずにキスをし てくれる。

そういうときだけ、迷わずに目を閉じる君は不思 議だ。そしてそういうときだけの、まっすぐな君 はかっこいい。うん、かなりかっこいい。



待ち合わせ場所に着いたらいきなり手を引っ張ら れ、ちょっと強引なやりとりをしながらどこかに 連れていかれ、息を切らして2人たどり着いた先は それはそれは素敵な花畑でした。

なんてシチュエーションのデートは望めそうにな い。

けれど、キスの後の照れ隠しなのか、口をおさえ て横を向く君にきゅんとしている限り、あたしは 君を嫌いになんかなれないと思うのだった。

好きと嫌いと
愛してる


好きと嫌いを足しても好きなんだから好きなんだ よ、結局。


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