机に備え付けられている電灯以外の灯りがない部屋。
外はすっかりと日も落ちてしまって、その一箇所だけが黒々とした闇の中で存在を放っていた。
はらりとページをめくる。
先日、興味があって買った本は思ったよりも面白く、ついつい続けざまに読みすすめてしまう。
ふと時計を見て、そろそろ布団に入ろうかと目元を抑えた。


がたん、と物音が響く。
瞬時に振り向けど、暗く灯りの落とされた部屋の中は確認しきれない。じわじわと暗闇に目が慣れていく中、あちらこちらの闇がざらざらと不鮮明で、まるでそこに無数の何かがいるような錯覚ばかりが思い起こされる。
何となく寒気に襲われ、それに突然の物音も気味が悪く感じられ、立ち上がる。
明かりをつけよう。
そう思った矢先、目前の暗闇からぬっと影が動いた。
思わず悲鳴が漏れそうになるのを留められたことについてはもっと褒めてもらってもいいだろう。
突如として開けていた視界がそれによって狭められる。そして伸ばされた腕は、唯一ついていた灯りを消した。
その僅かな時間で、それが誰であるかはすぐにわかった。

「……夜更しですか、感心しませんね」
「っ……び、…っくり、した」
「あぁ……不躾な訪問をしてしまいました。お詫びします。」

唯一灯されていた灯りが消されると、部屋の中はいよいよ黒一色だ。
自室だし、ベッドに向かう程度ならば微塵も問題はない。しかし、動くことは憚られた。動こうにも目の前には……姿は見えないが……微かにその男の気配がするのだから。
そしてその男、光成は動く様子をみせなかった。

「……あまり、夜ふかしをすると肌に悪いですよ」

光成の手が頬に触れる。普段から触れてくるその手はあまり体温が高くはないのだが、今日は一段と冷たく感じられた。
二、三度頬をさすった手はそのまま髪に触れる。それから糸を梳くように感触を楽しんだかと思えば、ゆっくりと頭へと手を回す。
ず、と彼が少しばかり近づく音がした。柔らかな床は足音を極力消してしまうが、近づいたのは間違いがない。
すぐ耳元からする息と、からだに回されている腕と。それから、その衣服に染み付いている匂いが強くなったことで、自分が抱きしめられているのだとわかる。

「……光成さん?」
「……はい。」

ぎゅう、と抱きしめられているのは自分だというのに、まるでこの男のほうがしがみついているかのようだった。
具合でも悪いのかと問いかけても答えはない。灯りをつけて欲しいと言っても、それは嫌だと首を振る。どうしたものかと硬直状態に悩んだところで、光成が腕を離す。薄着で風邪をひくのを心配したらしい。なんだそれはと思わず笑ったのも、きっとこの男にははっきりと見えているのだろう。

「あの……夜中に失礼しました。」
「それは構わないんだけど……何かあったの?」

たっぷりと間をおいてから「いえ」と答える男に、だったら来ないだろうと呆れる以外にない。しかし、答えるつもりもなさそうだと諦めるよりなかった。

「では、僕はこれで。」
「あぁ……うん。」
「おやすみなさい、指桐さん。」

最後に頬に温かいものが掠める。ずる、とまた動く音がして、部屋にあった気配が霧散した。
ぱっとついたテーブルランプ。暖かさを取り戻した部屋に、やはり光成の姿はなかった。ただ、テーブルにとじられた本の横には覚えのないホットミルクが増えていたのだった。




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電気を消したのは姿を見られたくないから。
姿を見られたくないのはぼろっぼろだから。
急にやってきたのは辛くなったから。
ホットミルクは迷惑料。

多分あちこちヨレてるし血が滲んでるしでそろそろ一回ダウンするんじゃないかな。でも一瞬見えればバレそうだよね。血の匂いとかしちゃいそうだよね。
「ただ、なんとなく甘えたい気持ちだった。今も反省していない。後で侘びは入れる。」

mae//tugi
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