「山吹さんって、呼べば出てきますよね」
「そりゃあ、呼ばれたら出ないとね」
「それ、おかしいですよ?」
「え?」
さも当然、いっそ褒めてくれてもいいと言わんばかりに笑顔だった悠里が軽く首をひねる。
琴はその様子にはぁ、と息をつきつつ、テーブルへとカップを下ろした。
いったところで、悠里はどこが、と疑問符を浮かべるばかり。意を決したように琴がいった。
「普通は、呼ばれても、出てきません。」
「なんでだい?」
「なんでって、そりゃあ…誰もが山吹さんみたいに…ストーカーしてるわけじゃないんですし」
「まぁ、それはそうだろうけど」
「……わかっててやってるんですか!」
しれっとうんうんと頷いた悠里に、琴は一瞬呆気にとられた。つい大きめの声で出たセリフは本心からだ。なんて性質が悪いことかと頭痛でもしてきそうだった。
「多少はね。でもやめられないって言うか、なんていうか」
そんな琴と、その声につられてこちらを見ている視線に珍しくたじろいだ悠里はいくらか小さな声で歯切れ悪く答える。
それから琴にじっとりと不信を訴える目で睨めつけられ、小さく唸る。
「あー、うー…だ、だってさ」
「……なんですか」
下げられていた視線が右へ左へと泳ぎながら、何かを考えていた悠里がしっかりと琴を見据えた。
眼鏡越しに視線が交わったところで、悠里の表情は戸惑いから、照れたような、よくわからないものへと変化する。
「何があってもいいように、そばにいたいからさ。」
「へ?」
「その、琴ちゃんに何かあったらと思うと気が気じゃなくて。心配で、怖くて、つい。」
あんまり役にたたないかもしれないけど、守りたいんだもん。とどこか自嘲気味に、悠里が言った。


今日も今日とてヒーロー気取り。
けれどもそんな格好いいものに慣れないと、自分に対してどこかで呆れていた。


mae//tugi
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