「え?こ、琴…ちゃん?」

どさりと押し倒されて、身動きが取れない。にこにこと笑う彼は、いつもより楽しそうに見える。

「あ、あの」
「ねぇ、山吹さん」
「は、はいぃ!!」

狼狽えていると、琴がずいっと顔を近づける。ぎくりと肩が強張ったのは…仕方が無いことだろう。逃げようにも、両腕の手首はがっちりと掴まれているし、さらに腹の上にどっかりと座られてはどうしようもなかった。足をジタバタと動かしても、むしろ髪が乱れるし、琴が手首を掴む力を僅かに強めるだけだった。観念するのは早かった。
息がかかるほど近い距離。

「好き?」

誰が誰をなどと、今更だ。困ったように眉根を寄せながら、微笑む。それから、「すき…だよ」といつもより威勢のない声で答えた。そっか、とこれまた楽しそうに頷く彼が唐突に薄っすらと開いていた悠里の口を塞ぐ。

「んむ…!?」

軽く塞ぐだけだったそれが徐々に深まり、悠里は目を閉じる。次第に息苦しさで腕に力を込めるが、無駄に終わった。は、と短く口を開き息を吸おうとしたが、ぬるりとした厚みのあるものに塞がれ、充分には吸えない。

「ん、ふぅ……は、」

いつの間にか、右腕が自由になる代わりに、がっしりと頭を抱えられており、尚更逃げることが出来なくなっている。力無く琴を叩くが、体格差もあり、なんの影響もない。ぬちゃりとした音がなる度に息苦しくなる。顔が熱い。くらくらする。

「ふはっ…ふ…こ、とちゃ…」
「ん…足りない?」
「!?いいいえ!?」
「そっかそっか、足りないかー」
「ちょ、ま、んっ」

服に手をかけられ、身をよじる。逃げようとしても、肩をがしりと掴まれる。逃がさないよ、などと言われてしまい、さぁっと顔色を悪くした。琴が愉快とばかりに笑みを深める。この状況。次にどうなるか分からないほど、悠里は子供でもない。

(詰んだ…)

びり、とシャツが割かれる音に、じわりと涙が浮かぶ。情けなさでしにそうだ。ごめんなさい、とつぶやく。なにが?と笑顔だ。ゆるして、とつぶやく。なにを?と笑顔だ。あいしてる、とつぶやく。はいはい、と笑顔だ。嗚呼、どれも本当なのに、とはらりと雫が落ちた。なにも悪いと、なにも嫌だと思ってないくせに。そう嗤う琴。悠里はばれたかと努めて明るく笑う。諦めたように息を吐き出し、琴へと腕を回したのだった。




自業自得セレナーデ

(君が好き、それ以外は嘘ばかり。)




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ストーカー行為やらを悪いとは微塵も思ってないが、それくらいしか怒らせる事はしてないと素で思っている悠里。とりあえず、謝れば許して解放してくれないかな、くらいの謝罪。お見通しな琴様。唯一、せめて嘘でも愛の言葉かムードくらい欲しかったなあ、な悠里。おわり。

p.s.悠里お姉さんは琴様にはでろでろに甘いから断れない!

mae//tugi
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