ふつかめのよる青い鳥のお話///

「今日はやけに鳥がうるせぇなぁ」
畑仕事をしていた男がそういった。
頭上では色とりどりの鳥が飛び交い、各々に甲高い声を上げている。
その様子を見上げていると、別の声が男を呼んだ。
「おぉーい、ちょっときてくれー」
「どうしたー?」
ちょいちょいと手招いている男のほうへ向かいながら、男はなにとなく、嫌な予感にぶるりと背筋を震わせたのだった。

呼ばれたままについていけば、そこは忌々しい子供が住まう家だった。
ざわざわと数人がその扉の前で何事かを話し合い、二人ほどが家の中から出てきた。
「どうしたってんだ?」
「あぁ、来てくれたのか。いないんだよ。あいつが。」
「なんだって?」
予想だにしていなかった言葉に、慌てて家の中に飛び込んだ。
やや埃っぽいもののそれはそれは綺麗に整理され、ややもすると生活感が薄い一階と、ぼろのベットが一つあるだけの二階のどこにも、子供の姿はなかった。
窓には小鳥がとまって、ぴぃぴぃとやかましく鳴いているだけだ。
しばらく呆然と立っていた男だが、軋みを上げる階段を降りきったと同時に、沸々と湧き上がるなにかを感じる。ごくりと喉を鳴らし、男は玄関付近に立っていた小太りの別の男と顔を見合わせた。
そしてどちらともなく、大きな歓声をあげたのだ!
「…そうか!いなくなったのか!」
「あぁ!そうだ!あのおぞましいのはもういないんだ!」
喜び勇んでぼろ小屋から出た二人の顔には満面の笑みが浮かんでいる。
よくよく見れば、小屋の周りにいた誰もが、安堵と喜びの表情をしていた。
この日、村人は久方ぶりに盛大に祝いの酒を飲んだのだった。

それから数日。
男が悠々と道を歩いていたときのことだ。
相変わらず、不気味に鳥がうるさく、その空に向かって怒鳴った時だった。
別の村人が「おぉーい、なぁにをそんなに叫んでるんだァ」とけたけたと上機嫌に近づいて来る。その人物の方へ視線を下げた一瞬。
曇り空から勢いよく鳥たちが降下してきたのだ。
驚いた村人が呆気にとられていると、その鳥たちはあっという間に男を取り囲み、男の顔を、腕を、足を、ついばみ、引っかき始めたではないか。
そして、あまりのことにどうすることもできないでいる男の目をめがけて一羽の鳥が襲いかかった。
鋭い嘴によって、その目は無残にも潰される。もう片方の目も、鋭い爪によって散々に引っかかれ、男はとうとううずくまる。
騒ぎを聞きつけた村人たちが銃を放ち、鳥たちが空へと戻るまで、その恐ろしい襲撃が止むことはなかった。

目をやられた男と、それを見ていた村人はそれを行った鳥をよく見ていた。
黒い目だったが、その白い翼は白い髪に赤い、そう、まさに血のような赤い目をした子供を思い出させるには十分だった。
右目を無残にも失い、左目もほとんどの視力を失ってしまった男をみて、人々はぞっとした。
なぜなら、その男が、シロと呼ばれたあの子供へと石を投げたことを知っていたからだ。
同時に、誰もがそれを笑って眺めるだけで止めなかったことも、運悪く、男が投げた石がシロの右目を潰してしまったことも……。
口々に恐れ、言い合った。「あの鳥たちはシロの怨念に違いない」と。
それ以来、この村では鳥、とくに白い鳥へは丁重な扱いをするようにと心がけるようになり、やがてそれは信仰へと姿を変えていくのだが、それはまた別の話としよう。


ところ変わって、森の奥のことだ。くつくつと男が笑っていた。
大きめな体躯のその男は、青い絨毯が幻想的なその場所で、近くへとやってきた鳥の頭をそっと撫でる。
鳥が声を上げた。集まってきた鳥のどれもが青い色に美しい声をしている。一羽だけ混じっている赤い鳥が、一際高い声をあげてその輪を通り抜けて、一本の木の足元へと降り立った。
その傍らには、幸せそうに眠るシロの姿があった。
ちょうどその足の間に降り立った鳥がその上へと覆いかぶさるように倒れる。
それからぴくりとも動くことはなかった。
二度と目を覚まさないその一人と一羽を男は慈しむように一度撫でて、抱え上げる。随分と軽いその重さに少しばかり驚きながら、男はすでに用意されている墓標へと近づいた。
「ここはいい場所だろう、白い子や。」
物言わぬ骸の代わりに、青い鳥がぴぃとひとつ、ないたのだった。

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おしまい
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